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 ビジネス分野ではその時代の問題を解決するために、様々なコンセプトや手法が生み出され、流行に乗った一部のコンセプトは多くのメディアに取り上げられる。そして、あたかも打ち出の小槌(こづち)のように過大な期待をもって宣伝され、その多くが企業の幻滅を残して消え去ってしまう。

 サービス・イノベーションの特集を読んでいると、多くの成功事例が強調され、あたかも魔法の杖(つえ)のような印象を受ける。しかしながら、現実の企業は多くの困難に直面し、地道な努力の末にほんの一握りの企業だけが成功を手にするものだ。我々は成否を問わず様々な実例を真摯(しんし)に受け止め、将来への貴重な示唆を学ぶ必要がある。

 幸いにも大澤幸生委員の本コラムにおいて、病院を題材に真のサービス組織を作り出す難しさが指摘されている。

 私の杞憂(きゆう)ではなく、ほかの分野においてもサービス・イノベーションを実現するためには、多くの困難を乗り越えなければならないようだ。同時に大澤委員のコラムでは、コンセプトやアイデアの解釈についても重要な指摘がある。ケースだけをよく検討すると違うコンセプトを扱っていたり、従来のコンセプトを新しい言葉で言い直したりしているだけのことがある。

 以前、委員の1人と話をしていたときに、サービス・イノベーションをシステム開発と同義に考えている人もいるという指摘を思い出す。その委員同様に、私もこうした考えには同意できない。サービス・イノベーションというコンセプトは従来にはまれだった新しい現象を含んでおり、単なるシステム開発では断じて無いと信じている。

 サービス・イノベーションが真に理解されるためには、一部の成功事例をことさら強調するのではなく、現実の困難さを真摯に直視することが重要だ。幸いにも我々は過去の産学共同研究の中で数多くの事例を扱い、重要な教訓を得てきた。本稿では幅広い事例ならびに諸問題を積み上げ、膨大な努力と組織的な取り組みの中でサービス・イノベーションにはどのような困難が待ち受けているのか、その一端を紹介してみよう。

サービス・イノベーションの難しさを2つの側面からみると…

 私の前回コラムでは、サービス・イノベーションの焦点として、(1)幅広い範囲のデータ・情報を駆使して科学的かつ論理的に現象の理解を深めること、(2)価値創出のためにインクリメンタル(漸次的)な変化を生み出す多様な相互作用の重要性を指摘した。本稿ではサービス・イノベーションの困難さをこれら2つの側面から実例を交えながら検討していこうと思う。

 サービス・イノベーションを実現するためには、多様かつ膨大なデータ・情報を駆使して、科学的・論理的に現象を理解することが最初のステップだ。持丸正明委員の本コラムにおいても、共創型サービスのキーとして「データコンテンツ」をコアにした好循環の構築を指摘しているが、これを作り上げるには目に見えない多くの障害が存在する。技術的な要因と人的な要因が交錯し、現実にはなかなか前に進まないものだ。実例をあげながら、理解を進めよう。