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 経営者にとって、情報システムは頭痛の種になりがちだ。業務に必須だが投資に見合った効果が出るとは限らない。ほかの設備投資に比べて専門的で難解でもある。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務め急成長を支えた著者が、ベンダーとユーザー両方の視点から、“システム屋”の思考回路と、上手な付き合い方を説く。

 前回(第31回)は、私が1990年に策定にかかわった「2000年の情報サービス産業ビジョン」について書きました。

 このビジョン策定の際に、私が考えた情報サービスの産業構造のイメージがありました。まだ30代半ばの若輩者であった私ですが、情報サービス業界にいる企業各社が異口同音に「自分が『システム・インテグレーター』だ」と言っている状況を異常だと感じました。自動車産業でいえば、完成車メーカーも部品メーカーも金型メーカーもみんなが「完成車メーカーだ」と言っているような状況は異常です。これとは違う健全な産業構造を作ることが望ましいと考えたのです。

 当時、以下の4つの産業構造の層を想定しました。

 第1の層は「需要を喚起する企業群」です。IT(情報技術)を活用して競争力を高める方法論を、仮説としてユーザー企業にぶつけ、ユーザー企業に情報化を進めよう、投資しようという考えを抱かせる、まさに需要を喚起する役割を担うシステム会社です。

 第2の層は「難易度の高い大規模システム開発プロジェクトをこなすシステム・インテグレーター」です。「システム・インテグレーション」本来の意味の仕事をしてくれるシステム会社群であり、様々なリスクに備えることができるだけの事業規模、組織体制、多様な技術力を持つ大手システム会社です。

 第3の層は「個性あふれる専門ブティック群」です。企業数で言えば、この層が圧倒的多数を占めるはずです。パッケージソフトやソフトウエア部品専門、あるいはプロトタイピング専門、チューニング専門、テスト専門、導入専門など、個性あふれるシステム会社群です。

 第4の層は「人材動員力がウリの作業請負会社」です。あちこちの大規模・中規模プロジェクトから声がかかり、開発ピークを乗り切るだけの人員を動員することができるシステム会社たちです。この層では一定の人員規模を持つ大企業のほうが有利でしょう。

なぜか根強い「システム・インテグレーション」信奉

 私はこのように、各社が個性を生かし、強みを追求するような産業構造を理想形と考えたのですが、2009年の今だったらどうでしょうか。今でも、多くの企業が第2の層である「システム・インテグレーション」を目指す傾向が根強くあると見ています。

 一方で、日本国内では、第4の層のシステム会社は激しい国際競争にさらされています。中国をはじめとする諸外国が第4の層を担い始めたのは、もう10年以上前のことです。日本のシステム技術者は70万人いると言われることがありますが、そもそもインドでは毎年それに相当するだけのシステム技術者が新たに労働市場に送り込まれているのです。

 いずれにせよ、日本のシステム会社は、担当するプロジェクトや組織の規模拡大に走るのではなく、自社の個性や強みを追求する策を持たなければ生き残れなくなっているのは確かです。

佐藤 治夫(さとう はるお)氏
老博堂コンサルティング 代表
1956年東京都武蔵野市生まれ。79年東京工業大学理学部数学科卒業、同年野村コンピュータシステム(現野村総合研究所)入社。流通・金融などのシステム開発プロジェクトに携わる。2001年独立し、フリーランスで活動。2003年スタッフサービス・ホールディングス取締役に就任、CIO(最高情報責任者)を務める。2008年6月に再び独立し、複数のユーザー企業・システム企業の顧問を務める。趣味はサッカーで、休日はコーチとして少年チームを指導する。