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 しばしば指摘されることであるが、経営者は、従業員がどのような方法で、現場でサービスを提供しているのかが見えていない。これは、顧客がサービスを受けるとき、従業員がそのときにサービスを提供する必要があり、その場に経営者や管理者が立ち会うことが現実的に難しいからである。それでも、小売りや理美容、飲食サービスなど、オープンな環境で顧客にサービスが提供されるとき、遠くから観察することで、それを見ることができるかもしれない。

 しかし、例えば医療サービスなどは、サービス提供の現場に第三者が立ち入ることはできない。警備や清掃などの施設メンテナンスサービスは、役割分担され、人がいないところで作業が1人で行われる。交通や運送のサービスは、原則、ドライバーが1人で運転し、実際の作業現場で何が行われているかを理解することはできない。

 このため、多くのサービス産業の現場では、アンケートや覆面調査などの方法を使い、間接的に従業員の作業内容やサービスの提供方法を理解しようとしている。また、定期的に管理者がモニタリングすることで、作業方法が適正に行われているかを把握するようにしている。

先進的事例としてのトワード物流

 今回、佐賀県にあるトラック運送会社のトワード物流(代表取締役社長は友田健治氏)の先進的な取り組みを紹介する。トワード物流は、サービス産業生産性協議会によるハイ・サービス日本300選受賞企業の1つである。

 ドライバーが出発すると、そのドライバーがどのように運転しているのか、会社としてそれを正確に把握することが難しい。同じように、1人で運転しているドライバー自身も、自分の運転方法を客観的に見ることが現実的にできない。このことは、トワード物流のような運送会社のみならず、例えば路線バスなどの交通サービスで一般に言われていることである。

 もし、このようなサービスにおいて、会社がドライバーに燃費の向上を求めると、ドライバーは自分の運転方法以外のところにその原因を求めたがる。例えば、荷物の積載状況、運転のルート、渋滞や事故、工事などの道路状況、車種や車両の整備状況などである。従って、どうしてもこれまでは客観的に見える交通違反の回数で、ドライバーの評価が行われてきた。

 もし、そもそも安全で正確な運転を通じて、燃費改善していこうとすれば、ドライバーは発車から停車まで、交通の流れに沿って滑らかに運転しなければならない。例えば、一般にエンジンの回転数は、1km(キロメートル)当たり1300~1400回転であるのに対して、技能レベルの高いドライバーは1000回転である。慣れていない場合、1500~2000回転になると言われている。つまり、ドライバー1人ひとりの運転方法は、エンジンの回転数やブレーキの踏み方に現れているのである。

写真1●TRU-SAMシステムの端末
写真1●TRU-SAMシステムの端末
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 そこでトワード物流では、トラックを安全で正確に運転するだけでなく、収益向上やコスト改善を達成するために、自ら「TRU-SAM(Truck Support, Administration & Management)」というシステムを開発し、正確な運転方法をリアルタイムに把握できるようにした。

 このシステムを、保有するすべてのトラックにモニター付きの端末として搭載した。そして、実際のアイドリング時間やエンジンの回転数といった走行データを取得できるようにした。さらに、運転の滑らかさを定量的に評価するために、本来あるべき理想の運転方法とのギャップを数値化する「波状運転指数」も開発した。この波状運転指数を、実際の運転現場に導入したことで、一人ひとりのドライバーや会社の管理者が、経験や感覚的に理解していた運転方法を、客観的な数字でそれを評価できるようになった。

 この波状運転指数は、新入りのドライバーとベテランのドライバーで大きく差が出るとのことである。波状運転指数が高いとき、ドライバーはアクセルやブレーキを多く踏み、車間距離が短い。その結果、運転が荒く、事故も多くなる。つまり、新人は20~30であるのに対して、経験を積んでいくと15以下になる。そして、ベテランの運転技術を身につけられれば10以下になる。

 このデータをドライバーが自ら見ることで、運転方法を自ら改善できる。トワード物流では、一人ひとりのデータをドライバーに開示し、さらにより良い運転を行っているドライバーの技術を共有できるようにしている。その結果、システムの導入の前後で、燃費が著しく改善している。

写真2●運転履歴情報やトラックの位置情報がリアルタイム把握
写真2●運転履歴情報やトラックの位置情報がリアルタイム把握
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 また、運転が滑らかになったことで、タイヤの磨耗も減り、車両の修理コストも減らすことができた。さらに、事故のリスクが減ったことから、保険料も約75%の割引となり、会社の収益向上に大きく貢献し始めた。加えて、運転履歴情報やトラックの位置情報がリアルタイムで把握できることから、運送に関する正確な情報を荷主に提供できるようになり、サービスの顧客満足の向上にもつながっている。

 さらに、トワード物流では、TRU-SAMを通じて蓄積したノウハウも活用し、このシステムを外販している。そして、さらに他社にアドバイスするコンサルティングサービスの提供も開始している。

ドライバーが自らの運転方法を改善し、生産性向上へ

 以上のように、これまで十分に把握できていなかったドライバーの運転方法を、客観的データを取得し、それを理想的な運転方法と比較できるようにした。その結果、ドライバーが自らの運転方法を改善でき、会社の収益とともに、荷主の満足向上も同時に実現した。つまり、サービスの現場作業を客観的に視える化したことで、サービス性生産性が向上したのである。

内藤 耕(ないとう こう)氏
産業技術総合研究所 サービス工学研究センター次長
産業技術総合研究所 サービス工学研究センター次長 内藤 耕氏  1966年3月生まれ。金属鉱業事業団(現在の独立行政法人石油天然ガス金属鉱物資源機構)、国際協力事業団、世界銀行グループ(米国ワシントンDC)を経て、2001年7月から独立行政法人産業技術総合研究所に勤務。2008年4月から産業技術総合研究所サービス工学研究センター次長。平成20年度サービス産業生産性協議会科学的工学的アプローチ委員会委員長、青山学院大学大学院ビジネス法務研究科非常勤講師、東京大学人工物工学研究センター客員研究員を兼務。工学博士。主な著書に『第2種基礎研究:実用化につながる研究開発の新しい考え方』(編著、日経BP社)、『「産業科学技術」の哲学』(共著、東京大学出版会)、『サービス工学入門』(編著、東京大学出版会)などがある。