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 「ほんの思いつきでも結構ですのでどんどん意見を言ってください」─。新事業などを企画する会議はまずこのようなブレーンストーミングから始まる。しかしこんな経験はないだろうか。「社会貢献の見地から…」といった思い入れの強い意見が出たり、「お客様からこんな声を聞いた」という一片の事実が市場の動向を決めつけるように語られたり、「過去の経験から見て方向性は明らかだ」という意見が出たりしているうちに、気軽に発言できなくなってしまう。

 かといって、こうした発言をする人たちに悪気は無い。むやみに発言を押さえつけては本末転倒だ。こんなとき、議論の方向性を図示化してリアルタイムに整理できる手法があれば、参加者が個々の意見の位置付けや相互の関連性を冷静に理解して、バランスの取れた議論をできるようになる。こうしたニーズに応えられる図解表現技法が「マインドマップ」だ。

 この技法を今年から取り入れて新事業のブレスト会議を開いているのが大気・水質・土壌などの環境分析を主に手がけるオオスミ(横浜市)。大角武志代表取締役社長は「当初は自分の思考整理のためにマインドマップを個人的に使っていた。そのうちに、連鎖的にイメージを想起させる効果を会議にも生かせないかと思った」という。

 総務部門や研究開発部門の会議に試験的に導入してみたところ、会議で斜に構えた態度を見せがちだった研究開発部門の若手社員が、「議論がどんどん整理されて、いつものもやもや感が無くなり、会議が楽しくなった」と発言した。これを聞いた時に大角社長は、マインドマップを積極的に会議で使おうと決めた。

リアルタイムに議論の流れを図解

 2009年7月某日、オオスミの会議室に大角社長以下、7人が集まった。社長以外は、30~40代前半で係長と課長の中間、いわば同社の現場リーダー層だ。会議室の前のスクリーンがマインドマップを作成するパソコンソフトの画面を映し出している。マインドマップの書記係としてそのパソコンを操作するのが社長秘書の荒木香津代氏だ。

 同氏の役割は2つある。1つ目は第三者の視点で議論の中身をマインドマップで可視化しつつ、議論のペースが遅くなったときにタイムキーパーとして参加者に注意喚起すること。2つ目は、議論の方向が偏ったときに「忘れられているテーマがある」と参加者に知らせることだ。

 司会役の大角社長が「B to Cビジネスに参入したい。環境調査という事業をどう展開できる余地があるか自由に意見を言ってほしい」と切り出すと、次々と社員が発言し始めた。

 「アスベスト(石綿)問題やシックハウスを心配する消費者は増えている」「不動産業者から聞いた話では、調査に関心を持つお客様がいるが、20万~30万円の調査費用が高過ぎて依頼につながらないという」「両親が家庭菜園を楽しんでいるので、土壌検査の簡易キットをプレゼントしたい」「お客様対応を考えると直販するより通販会社などに売ってもらったほうがよいのでは」─。

 やや脈絡が無く意見が出ている印象を受ける。荒木氏は落ち着いてこれらの意見を即座に分類し、マインドマップに書き加えていく。事前に「市場の声」「ターゲットは?」「何を?」「誰が?」など主要な枝(ブランチ)を作成していたので、そこに書き込む。意見を書き加えていくと、その項目からさらに枝が伸びて大きくなる。どの項目が活発に意見が出ているのか一目で把握できる。

図1●オオスミで行われたマインドマップ会議の進行経緯
図1●オオスミで行われたマインドマップ会議の進行経緯
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 30分ほど過ぎた時、荒木氏が口をはさんだ。「そろそろここで議論の対象を絞っていってもよろしいのではないでしょうか」。この時点で意見が多かったのは「市場の声」と「何を?」だ。一方、販売経路関連の「誰が?」と、顧客像に関する「ターゲットは?」の意見が少ない。大角社長もマップを見て「『誰が?』と『ターゲットは?』を広げてみましょうか」と流れを修正した。

 枝を伸ばそうと、荒木氏は議論に“突っ込み”を入れ始めた。参加者が「環境商社が最近出てきています」と発言すれば、「例えばどんな会社ですか?」と具体的な情報を求める。

 その直後、顧客像に関して議論が空転しかけた。「土地をたくさん持っている富裕層が興味を持つのでは」という意見が出ると、「金銭的に余裕がない人にも使えるサービスを提供するのが企業の使命では」「富裕層の定義って何だ」とアイデア以外のコメントが出始めた。荒木氏は「富裕層の話から議論が停滞気味です」と、けん制した。

 大角社長が引き取って「収入以外の切り口は無いのかな」と視点を広げにかかる。すると「家庭菜園は定年を期に始める人が多いので、60歳前後の人がターゲットになるのでは」という意見が出た。大角社長が「年齢・時間・収入それと地域の切り口もありそうだね」と続けた。しかしそろそろ参加者も疲れてきたようだ。所定の会議時間(1時間)がほぼ過ぎようとしている。

 「『年齢層』と、できれば『いくらくらいで』、『どんな販売経路』で、という切り口で議論できるといいですね」と荒木氏。マインドマップの左上に、次回の会議までに参加者にリサーチしてほしい事項として「価格帯」「どの層に対し」「どの販売経路を使う」の3点を書き込んだ。

図2●オオスミの会議では社長秘書の荒木香津代氏(右上)がマインドマップで記録を取る。リアルタイムで意見をマッピングしていくには慣れが必要だ。大角武志社長(右下)はビジョン作りなどにも手書きでマインドマップを活用する
図2●オオスミの会議では社長秘書の荒木香津代氏(右上)がマインドマップで記録を取る。
リアルタイムで意見をマッピングしていくには慣れが必要だ。大角武志社長(右下)はビジョン作りなどにも手書きでマインドマップを活用する

 終わりの時刻になり、大角社長がこう締めくくった。「ここでシェアされたことについてどうでしょうか。次回までに、簡易的な企画書を提出してください」。こうしてお開きになったが、終わったあとも一部の参加者はマインドマップを見ながら活発に意見を交わしていた。

どんな意見も受け止めてもらえる安心感

 大角社長と荒木氏によればマインドマップの主な効用は3つある。(1)議論の流れを気にせず自由に発言できる。(2)反対意見を持つ人も発言しやすいムードになる。(3)議論が偏りすぎたとき流れを修正しやすい。

 (1)や(2)については、どんな発言をしてもマインドマップの上に分類してきちんと記録してもらえる、という安心感がもたらす効用だ。

 (3)については、冷静に議論の流れを観察しつつ突っ込みを入れる人材が必要だが、荒木氏は「何回か担当すればコツを体得できる」という。

 ブレストが盛り上がらず悩んでいる企業にとって、試してみる価値は大いにありそうだ。

マインドマップ会議
 英国のトニー・ブザン氏が考案した図解表現技法で、日本では一般社団法人ブザン教育協会が商標権を持つ。放射状の階層構造で情報を整理し、個人の思考整理や情報管理ツールとして急速に普及している。職場の会議の記録に活用すると、議論の構造をリアルタイムで整理でき、そのまま議事録として議論の全体像を確認できる。マインドマップを作成するソフトウエアも開発されている。
参考文献:『マインドマップ超入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)