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 今後VODサービスを普及させるためのフックの一つとなるのは,パッケージ化される前段階の放送番組を利便性良く視聴できるようにすることであると思われる。その典型となるのが,Catch Upサービス,つまり「見逃し番組」のVOD提供である。

 VODの市場は,2008年11月にフジテレビ,同12月にNHKが「見逃し番組」をVODで提供し始めた。放送終了から間もなく視聴できるということは,レンタル・ビデオ店には不可能なサービスである。しかし,「見逃し番組」のVOD提供には,強力なライバルが存在している。一つは,各家庭に既に広く普及している高性能な録画・蓄積機器である。放送時にテレビの前にいなくても,予め録画予約をしておけばタイムシフト視聴は容易である。わざわざ有料のVODサービスを利用するまでもない。

 もう一つは,動画投稿サイトに違法にアップロードされている放送番組である。なお,違法アップロードは,サイトの運営者が削除に応じざるを得なくなっていくことで,いずれは正規のサービスに取って代わられることが期待できる。

先取り番組をVODで提供

 とは言え,「見逃し番組」のVOD提供だけでは,VOD市場の拡大に直結し得る状況にない。そこで,市場拡大の次なるけん引役として期待されるのが,Pre Viewサービス,つまり「先取り番組」のVOD提供である。簡単に言えば,地上波で無料放送が行われる前段階で,有料サービスとして了解してくれるユーザーに先に見せるというものである。

 例えば,連続ドラマであれば,第一回が放送された後に,有料で翌週まで待つことなく第二話,第三話が見られるようにする。「先取り番組」として売れるのは,第二話であれば,第一話の放送終了後から一週間以内に限られるため,事業者はコンテンツの出し入れが忙しくはなる。しかし「先取り番組」のVOD提供は,競合するサービスが一切無いという強みがある。

 NHKの場合は,法的な縛りがあって,放送よりも先にコンテンツを配信できない。規制そのものが時代遅れの感が強いが,現実に存在する。一方,民放にはそうした規制がない。広告モデルが難しい局面を迎えているだけに,有料ビジネスへの関心も強まっており,選択肢の一つになり得る。

視聴率への影響は杞憂ではないか

 パッケージ系のコンテンツについて,日本と米国とではウインドウ展開が全く異なっており,米国では有料視聴が先(それも,高価格な媒体から低価格な媒体へと順番づけられている)であるが,日本では無料の地上波放送から先にリリースされることが多い。放送番組の制作費を拠出するスポンサー企業は,当然のことながら高視聴率を期待する。先に有料のVODで見られるようになると,放送時の視聴率が下がるのではないかと懸念する企業も最初は多いかもしれない。

 しかし,それは杞憂なのではなかろうか。最初は,「見逃し番組」のVOD提供でも同様なことが問題視された。現段階で明確な結論が得られているわけではないが,あまり視聴率には影響しないのではないかと言われつつある。むしろ,放送時にも視聴した人が,有料・広告によらず,二度,三度と同じ番組を見ているケースも多いのではないかとすら指摘されている。

 それと同じことで,「先取り番組」をVODで有料提供したとしても,無料放送が行われる際に,また視聴する人も多いかもしれない。有料で先に見た人たちからの好評が得られれば,無料放送への宣伝効果すら期待できる可能性もある。同じ番組は1回しか見ないと限られるわけではない。映画がその典型であり,最初に有料で見せたものを,それから暫くして地上波で無料放送しても,映画興行で成功した作品は放送でも高い視聴率を得るケースが多い。「見逃し」とか「先取り」というスタイルが問題ではなく,その作品が何度見ても楽しめるだけの出来なのかどうか,が重要ということだ。

 民放は,今の「見逃し番組」のVOD提供も,一部しか行われていない。既存のビジネス・モデルへの影響度を検証しながら進めていくのは当然のことなので,少しずつでも対象番組を拡大していければ十分であろう。それと同じことが「先取り番組」のVOD提供にも言えるはずである。まずは一つの番組からでも実験的に始めてみるべきであろう。