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ケーブル敷設後,断線がないかどうかを慎重に確認

写真12●断線がないか専用装置で測定<br>左側の支柱の上に置かれた海底ケーブルの先端から光ファイバを引き出して測定器に接続。日光の影響を防ぐためか,測定器を段ボールで覆っている。測定器で光パルスを光ファイバに入射し,断線などが発生していた場合は,その個所で散乱した光が戻ってくる時間を測ってその個所までの距離を割り出す。
写真12●断線がないか専用装置で測定
左側の支柱の上に置かれた海底ケーブルの先端から光ファイバを引き出して測定器に接続。日光の影響を防ぐためか,測定器を段ボールで覆っている。測定器で光パルスを光ファイバに入射し,断線などが発生していた場合は,その個所で散乱した光が戻ってくる時間を測ってその個所までの距離を割り出す。
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 10時50分,ケーブルの巻き取り作業が完了。その後は,シールドされていたケーブルの先端の皮をむき,内部の光ファイバを取り出して断線していないかを調べる作業が始まった。光ファイバを「OTDR」(optical time domain reflectometer)と呼ばれるボックス状の測定器に接続する。この測定器を使い,敷設船までの通信に問題がないかを調べるのだ(写真12)。

 OTDRを使えば,ケーブル内で断線が発生した部分までの距離が分かる。もし断線が見つかれば,その距離分のケーブルを引き出す作業をやり直さなければならない。砂浜の上で始まったOTDRの検査を,関係者は緊張しながら見守った。ケーブル自体は47mmと太いものの,内部の光ファイバは髪の毛のように細い。繊細な作業であるため,作業はなかなか進まない。作業開始から30分ほど経過すると,内部に通る10本のうち,5本に問題がないことが分かった。さらに待つこと15分ほど。11時45分に「全部OK」の声が上がると,周囲の関係者から拍手が鳴り響いた。

 その後は,再び複数の作業員が列になり,砂浜の中の引き込み口にケーブルを送り込んでいった(写真13)。引き込み用パイプの中には,中継センター側からワイヤーが伸びており,ケーブルの先を引っ張る仕組みになっている。12時30分には,すべての引き込み作業が終了した。

 一方,沖ではダイバーがケーブルを浮かせているブイを取り外す作業に入っていた。この作業は「ブイカット」と呼ばれている(写真14)。ケーブルとブイを結ぶロープをナイフで切り,所定の場所にケーブルを沈めていく。敷設船から砂浜に向けて長く伸びていた黄色と黒色の一筋は次第に見えなくなっていった。

写真13●引き込み口にケーブルを送り込む
写真13●引き込み口にケーブルを送り込む
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写真14●ブイカットを行ってケーブルを沈めていく
写真14●ブイカットを行ってケーブルを沈めていく
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接続完了は11月11日,運用開始は2010年春

 実は,当日の陸揚げ作業によって日米間が光ファイバで結ばれたわけではない。これから敷設船はさらに沖合に向かい,残り約470kmの敷設作業を進めることになる。

 ケーブルの全長のうち,3分の1をタイコ・テレコミュニケーションズ,3分の2をNECが受け持っている。今日の作業に向け,NECは海が荒れる今の時期を避け,海が穏やかな夏のうちにアリューシャン列島付近から日本に向けてケーブルを敷設してきた。そして千倉の沖合約470kmにケーブル端を下ろしたのである。陸揚げ作業を終えた敷設船は,その場所までケーブルを敷設し,そこでケーブルをつなぐ。こうして最終的に日米間が1本のケーブルで接続されるのは,11月11日を見込んでいる。

 その後,伝送品質などの確認試験などを経て,2010年春に運用を開始する予定である。

全容量4.8Tは5対の心線,10G×96波のDWDMを使って実現

 最後に今回の海底ケーブルの技術面について触れておこう。

 敷設された光ファイバは5対10本。1対のうち,1本が送信,もう1本が受信に使われる。当初の計画では8対だったが,需要に比べて容量が大きすぎることが分かったため,5対に減らして低コスト化した。

 今回敷設した光ファイバは,「DMF」(dispersion managed fiber)という最新のものを採用している。NECによると,同社が敷設した海底ケーブルでは2例目になるという。

 DMFは,光信号の損失の原因である「分散」を抑えるための特殊な光ファイバである。海底ケーブル・システムでは,約70kmおきに中継器を置く。その約70kmの区間のうち,光を入射する初めの3分の2の長さに正の分散値を持つ光ファイバ,残りの3分の1の長さに負の分散値を持つ光ファイバを使う。こうすることで,全体を通して分散値をゼロにすることができる。

写真15●中継センター内に置かれたDWDM装置<br>米タイコ・テレコミュニケーションズの製品を採用。上部の黄色いダクトを通って,海底ケーブルの光ファイバがこの装置につながっている。全容量4.8Tビット/秒をまかなうだけの装置は導入されておらず,需要に応じて追加していくという。
写真15●中継センター内に置かれたDWDM装置
米タイコ・テレコミュニケーションズの製品を採用。上部の黄色いダクトを通って,海底ケーブルの光ファイバがこの装置につながっている。全容量4.8Tビット/秒をまかなうだけの装置は導入されておらず,需要に応じて追加していくという。
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 また,光を入射する光ファイバのコア径を大きくすることで,やはり光信号の損失の原因となる非線形効果を抑えられる。損失を抑える効果は,従来の分散シフト・ファイバ(DSF)やノンゼロ分散シフト・ファイバ(NZ-DSF)よりも大きいという。

 伝送技術としては,1対当たり10Gビット/秒,96波のDWDM(dense wavelength division multiplexing)を採用している。10Gビット/秒×96波×5対=4.8Tビット/秒という計算になる。DWDM装置には,タイコ・テレコミュニケーションズの製品が使われている(写真15)。既存の技術に合わせて今回は10Gビット/秒×96波でシステムを設計したが,将来,技術革新が進めば,1対当たりの伝送速度や波長多重数を上げることが可能になり,このケーブルの総伝送容量をさらに高められる可能性もあるという。