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 数少ないヒット作ではなく,ほんのわずかずつ売れ続ける商品を幅広くそろえることで今までとは違う市場が成り立つという,“ロングテール”に関する解説書である。ロングテールの名付け親である著者自身が,どのような点に着目し調査したか,それがどのような意味を持つのかが書かれている。

 面白いのは,様々な企業の収益動向から得た,ロングテールを裏付けるデータ。実際に調査した数字を挙げながらの解説は説得力があって,何度もなるほどとうなずかされる。

 アップデート版となる本書では,各章の細かい部分に加筆・修正があったほか,第15章の「マーケティングのロングテール」と結びの後の「補遺」が追記された。ロングテールは元々,音楽や書籍といったメディア関連業種の話題が中心だったが,それがほかの領域でも成り立つことが分かる。

 ただ,分野によってロングテールの当てはめ方が案外難しい。横軸にとるパラメータを商品の種類,販売地域などと変えて,ロングテールが成り立つ領域を探してみると,ある意味でパズルを解いているようで面白いが,簡単にはピタッと当てはまらない領域もある。

 例えば携帯電話機について考えてみた。ロングテールの中核はニッチ市場の台頭にある。携帯電話市場では多彩な機種が次々に投入されていて,この多様性を見ると,どうにかしてロングテールの理論を当てはめられないかと思う。ところが携帯電話の場合は,新機種には新機能が搭載されていることが多く,機種を横軸にとっても,旧機種に関してロングテールが成り立つかどうかは微妙である。

 それこそニッチ市場を対象とするのだから,市場は成り立つかもしれないと考えてみるが,メーカーが少量ずつ継続的に製造・販売するとなると,製造,流通,在庫管理などのコストがかかりすぎる。少なくとも,日本の全端末メーカーのこれまでの全機種を一堂に集めるなど,在庫管理や流通の効率をもっと高める取り組みがなければ,ロングテールは成り立ちそうもない。

 iPhoneやAndroid端末など,ユーザーが自由に機能を追加できる端末ならどうか。アプリ・マーケットでニッチ機能を提供すれば,広範囲のユーザーに長期にわたって端末を提供できる可能性が広がる。ただ,これは話をアプリにすり替えたわけで,それで特定機種が広く売れるのなら,むしろヒット商品と言えるだろう。

 理論をひねくったところで正解は分からないし,すべての分野にロングテールが当てはまるとも限らない。それでも本書を読んでいると,自分の身近な領域でロングテールを探してみたくなる。私自身は,「速報性やトレンドを売り物にするメディア」で,どうしたらロングテールが成り立つかが頭から離れない。

ロングテール[アップデート版]

ロングテール[アップデート版]
クリス・アンダーソン著
篠森ゆりこ訳
早川書房発行
1470円(税込)