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 私は、この数年間、いくつもの自治体の基幹システム開発のアドバイスをしてきたが、その中で、市役所職員やITベンダー関係者と話を重ねるに連れて、「市役所職員が求めているものと、ベンダーのパッケージの方向がずれている」と感じるようになった。

 自治体側も、予算も限られているにもかかわらず、あれもこれもと要望が尽きない。そこで、職員に「本当にしてもらいたいことは、なんですか!?」と半ば大声で叫ぶと、黙ってしまう。

 初期導入費用や法改正に伴う改造費用が安く、職員の業務が減るように業務改善が行われていて、開発・導入に当たっては職員の負担も少ない、という夢のようなパッケージは、現実には存在しない。職員側も自分たちの本当の優先順位を明確に言えないのである。

コンジョイント分析を実施

 そこで、自治体の志ある情報政策関係職員、約30人のご協力をいただいて、「コンジョイント分析」を用いて、市役所の情報政策担当の方たちがシステム導入に当たって本当に重視する項目は何かについて調査を行った。

 コンジョイント分析とは、商品やサービスの持つ複数の要素に対して、ユーザーはどの点に重きを置いているのかを統計的に分析する手法である。

 今回の分析では、下の表にあるような要素(項目)を選び、それぞれの項目について、2~3個の選択肢を用意した。それぞれの項目に対して、特定の選択肢を組み合わせたカードを用意して、どのシステムが望ましいか、順番を付けてもらった。

表●コンジョイント分析で活用した項目と選択肢
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 選択肢の組み合わせとして本来は648通り(3×2×3×2×2×3×3)のカードが必要だが、分析を簡素にするために、直交計画法と呼ばれる手法によって、情報量が変わらないようにカードの枚数を16枚に絞り込んだ。

職員が重要視するものは?

 結果であるが、「導入後の改造費用が下がること」(ポイントが30.96)と第1位で、従前の半分になることが最も支持されていた。従前レベルの改造費用がかかることについて極端に低い評価がなされている。私も多くの自治体職員から聞くが、法改正等のたびに大きなお金を取られることに非常に大きな不満があることと一致している。

 第2位は「製品の質が、職員が使いやすいように向上すること」(同20.09)。「従前レベル」はとても評価が低く、「職員が使いやすい」ことや「住民サービスが向上」するように製品の質が向上することが望まれている。

 以下、「ソースコードの公開」「初期費用」が続いた。「初期費用の安いものに反応するのでは?」とも思ったが、パッケージ製品といいながらも、大幅なカスタマイズが必要なことが多く、その費用も加わると、どこまでがパッケージ製品の価格なのかとてもわかりにくい。この価格の不透明さが影響しているのではないかと推測している。

 私の予想を大きく外れたことは、システムの切り替えの際に新しい企業よりも既存の企業を重視していないことであった。新システムの「企業規模」についても、大手でなければならないとのこだわりはなく、これも意外であった(分析結果の詳細は、私のホームページをご覧いただきたい)。

ベンダーの対応が変わるか?

 自治体職員のニーズは、このように私の予想とは違ったものであったが、このような自治体職員のニーズがわかっていても、改造費用を安くできるようにルールベース思考でシステムを開発したり、ソースコードを公開したりすることは、ベンダーさんには難しいことかもしれない。ベンダーにとっては、システムの改造による利益を大きく減らすことになるからである。

 しかし、これからの自治体財政を考えると、法改正に伴うシステムの改造も半額以下ででき、使い勝手も良くするようにしていくことが大事だということを各ベンダーは認識して、基幹システムの開発に取り組んでいただきたい。

 自治体側もシステムを更新するときは、自分たちの本当に求めるものがどこにあるのかを見極めて、総合評価の配点を決めるべきだと思う。コンジョイント分析をしてもらいたいと思う自治体職員は私にご連絡いただきたい。

 本当に重視しているものが何かを事前に入札参加者に示しておくと、行き違いも少なくなり、お互いが満足するシステムの導入につながると思う。

ソース公開を重視する向きも

 ご回答をいただいた方のなかには、自分でプログラムを組んだり、業務改善に精通した方が何人かいらっしゃるが、その方たちの回答は平均値と異なり、ソースコードの公開を最重要課題としていた。

 改造費用を低く抑えていくためにも、また、使い勝手の良いものに自分たちで改造していくためにも、ソースコードの自治体への公開が、一番効果が大きいということがわかっているからである。

 しかし、ソースコードの公開に応じるベンダーさんの数は少ない。この点も、顧客が何を望んでいるかを理解し、ベンダーは意識を変えてほしいものである。

木下 敏之(きのした・としゆき)
木下敏之行政経営研究所代表・前佐賀市長
木下 敏之氏 1960年佐賀県佐賀市生まれ。東京大学法学部卒業後、農林水産省に入省。1999年3月、佐賀市長に39歳で初当選。2005年9月まで2期6年半市長を務め、市役所のIT化をはじめとする各種の行政改革を推し進めた。現在、様々な行革のノウハウを自治体に広げていくために、講演やコンサルティングなどの活動を幅広く行っている。東京財団の客員研究員も務める。
日本を二流IT国家にしないための十四ヵ条』(日経BP社)
なぜ、改革は必ず失敗するのか』(WAVE出版)。