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 クラウド・コンピューティングという新しい市場への参入方法を模索している米Microsoftは2009年11月第3週,「Windows Azure」(クラウド版「Windows Server」といったようなサービス)や「SQL Azure」(従来の「SQL Server」とよく似た外見/機能で分かりやすい新サービス)など,全面刷新したクラウド・ベースのコンピューティング環境を発表した(関連記事:[PDC09]Windows Azure上のアプリケーション市場やデータ市場を発表,基調講演速報[PDC09]「単なるSQL Serverのホスティングではない」,2010年にSQL Azureのバックアップ機能が強化)。

クラウドを指向するMicrosoftの苦悩

 クラウド移行を目指すMicrosoftへの評価は,見る立場によって,弱腰に見えたり勇敢に見えたりする。

 旧来のビジネス・モデルからの脱却に悩んでいるMicrosoftの姿は,弱々しく見える。分かりやすい例として「Exchange」用Webインタフェースである「Outlook Web App(OWA)」を取り上げて説明しよう。OWAはデスクトップ版「Outlook」と画面がうり二つで機能もそっくりに作ってある(関連記事:Microsoftが「Exchange 2010」をリリース,オンライン版の利用がお勧め)。Microsoftの社内には「10年選手のOutlookは使いやすいから生き残った」と信じる人しかいないらしい。もっと簡潔で効率的なものに置き換えられるとか置き換えるべきとかいった考えは出ないようだ(同社が現在もOutlookの会議リクエストを「Schedule+」と読んでいる事実は,おかしくもあり悲しくもある)。

 反対に,Microsoftのクラウド移行の現状を野心的とみることもできる。同社のように歴史のある安定した企業が機敏にクラウド市場へ参入するとは,注目に値する。しかも,既存のデスクトップ/サーバー向けソリューションを提供しつつ,クラウド・サービスとオンプレミス・システムを組み合わせる斬新で独特なコンピューティング・モデルを手がけている(関連記事:[PDC 2008]“クラウドとオンプレミスを対称に”,マイクロソフトがWindows Azureの狙いを説明)。

クラウド世代に受け入れられるかが問題

 大方の予想は,Microsoftが消耗し,米IBMのような企業専用で退屈かつ平凡でありながら高収益なサービスを提供するビジネス・モデルにたどり着く,というものだ。当然その可能性はあるが,少しはMicrosoftを信じてやろう。同社は将来に向けて奮闘中で,競争に勝てる魔力がまだ残っていることを示そうとしている。

 筆者の見立てでは,Microsoftの問題は誰にも注目されていない点にある。Microsoftを中心とする居心地のよい偏狭な場所から,多くのユーザーが暮らすところへ足を踏み出すと,ほとんどがMicrosoftと相性の悪い世界であると分かるだろう。

 そのような世界で,子どもや10代の若者は,「Twitter」や「Facebook」,「YouTube」を使って成長しているのだ。今や人々はパソコン(そして電話)を,オンライン・サービスやクラウド環境上のデータと自分とをつなぐパイプ程度のものとしか考えていない。こうした若者は,やがて学校を出て社会人として働くようになる。そして彼らは職場でも成長過程で触れたのと同じコンピューティング環境を使うようになる。筆者の世代もそうだった。

 かなり以前からパソコンを使っている筆者でさえ,たびたびインターネットが使えなかったあの時代のことを笑い話にする。あのころの何年もの間,パソコンで膨大な作業をしていたはずだが,いったい筆者がやっていたことは何だったのか,どのように処理していたのか,どうしても思い出せないからだ。もはやあのつながっていない世界は想像すらできなくなっている。