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立命館大学MOT大学院
テクノロジー・マネジメント研究科教授
After J-SOX研究会会長
田尾 啓一

 国際会計基準(IFRS)の大きな特徴の一つは時価会計(公正価値)である。今回は時価会計の意味とその課題を明らかにしたうえで、時価会計のもとでのリスクマネジメントの重要性と情報システムによる対応について説明する。

「時価」を基に会計処理を実施

 まず、時価会計とは何かについて簡単に触れておこう。時価会計とは、時価と簿価の評価差額を財務諸表に反映し、時価をベースに会計を行うことをいう。

 金融商品に関する会計基準(企業会計基準第10号)では、時価を以下のように定義している。「公正な評価額をいい、市場において形成されている取引価格、気配または指標その他の相場(以下、市場価格)に基づく価額をいう。市場価格がない場合には合理的に算定された価額を公正な評価額とする」。

 時価には出口価格(売却時価)と入口価格(購入時価)がある。米国会計基準のSFAS157(公正価値測定)では、出口時価を公正価値すなわち時価としている。その上で、時価の客観的なインプットのレベルによって活発な市場での公表価格(レベル1)、活発な市場での類似資産または負債の公表価格(レベル2)、予想キャッシュフローの割引現在価値や価格決定モデルなどによる価格(レベル3)の3段階に分けている。

実態に近い貸借対照表を開示できる

 時価会計の対象となるのは金融商品である。金融資産とは現金預金、受取手形、売掛金や貸付金などの金銭債権、株式その他の出資証券および公社債などの有価証券並びに先物取引、先渡取引、オプション取引、スワップ取引およびこれらに類似する取引(以下、デリバティブ取引)により生じる正味の債権などを指す。一方、金融負債とは支払手形、買掛金、借入金および社債などの金銭債務並びにデリバティブ取引により生じる正味の債務などをいう。

 ただし、すべての金融商品が時価会計の対象となるわけではない。主に有価証券、デリバティブが時価会計の対象となる。有価証券は、保有目的によって扱いが異なる。例えば、売買目的の有価証券は時価で評価するが、満期まで保有する目的の債券は時価が著しく低下しない限り、時価では評価しない。

 時価による開示は拡充される方向にある。2010年3月31日以降に終了する事業年度から、時価会計対象外の金融商品を含めて、金融商品全般の時価開示やリスク管理などを注記することになる。

 従来からの会計は「歴史的原価会計」などと呼ぶ。歴史的原価会計では、その資産や負債を取得するといった認識時の取得原価を財務諸表に計上する。この場合、市場で取引される資産や負債の価額が取得時と乖離してくると、貸借対照表に計上されている資産・負債の数字が実態とかけ離れたものとなる。

 時価会計は、歴史的原価会計よりも実態に近い貸借対照表を開示するのが狙いだ。IFRSは損益計算書よりも貸借対照表を重視しており、時価会計の考え方を取り入れることで貸借対照表をより実態を表すものにしているといえよう。

時価会計には副作用もある

 時価会計は投資家や企業を取り巻く利害関係者に対し、適正な財務情報を提供しようとする。しかしその一方で、大きな副作用が生じる可能性がある。

 今日の経済環境では、株式相場が大きく下がり、為替が激変し、サブプライムローンで問題となった証券化商品のように買い手不在の中で取引価額が暴落する状況が起きている。こうした状況では、先ほどの時価の定義にあった市場で取引されている価格が必ずしも公正な価値を示していないという問題が生じている。時価を反映した会計処理を行うことで、経済全体の混乱に拍車を掛けているとの指摘もある。

 特に銀行の場合は金融商品の残高が大きく、市場の混乱による業績への影響が大きい。銀行は自己資本比率規制があり、リスク資産に対して一定比率以上の自己資本を持たなければならない。資産の評価額が下がることは、その分、自己資本が目減りすることを意味する。この場合は自己資本比率を維持するために、リスク資産である金融商品の残高を減らす必要が出てくる。このことが金融商品の需給関係を悪化させ、さらなる時価下落を引き起こすという悪循環が生じる。

 リスク資産には主要業務である貸付資産がある。銀行が貸付金の残高を圧縮すると、中小企業などへの貸し渋りが起こり、実体経済に大きな影響が出てくる。