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※本記事の前編(上)はこちらをご覧ください。

 前回は、「現在の経済の大混乱は資本主義の限界というよりも米国政府が資本主義と民主主義の運用に失敗しただけだ」という考え方を紹介した。そして資本主義は元来したたかに進化・変容する制度であり、今後は中国における成長と環境の両立が進化の鍵を握ると述べた。だが、現代社会を支えるOS(オペレーティング・システム)は資本主義だけではない。資本主義は民主主義、国家主義、官僚主義と共生しつつ育ってきた。今回はこの4つのOSとの関係で資本主義の未来を考える。

■現代社会を支える4つのOS

 資本主義は14世紀に誕生し、産業革命以後に発達した。マックス・ウェーバーは資本主義の起源をプロテスタンティズムに求める。プロテスタントは資本主義の中で利潤を求めて勤勉に働くことを現世における精進だとする。資本主義に沿った金儲けを倫理や勤勉、宗教意識と関連付けた。

 資本主義は宗教のみに由来するわけではない。現代社会を動かす他の3つのOS、つまり民主主義、国家主義、官僚主義と支えあって育った。

 まず国家主義だが、これは資本主義が育てた。中世西欧社会は豪族、教会、王の権力が交錯する多層的無秩序社会だった。それが17世紀に専制君主の国家主義のもとで統合された。資本主義が都市の商人を育て彼らと王が結託して豪族と教会の権益を奪取したのだ。

 国家主義は官僚主義を育てた。大きくなった国家を統治する実務の必要に加え、合理的かつ公平無私な行政を行ない、君主の正統性を示す必要があった。20世紀に入ると官僚主義は軍隊を巨大化させ、また20世紀後半には大企業の組織経営を生み出した。この流れの延長で資本主義は国家主義と結合して海外に進出する。それが帝国主義である。

 民主主義との関係はどうか。資本主義の拡大再生産は民衆に富を分配し、意識を覚醒させた。民主主義は資本主義に育てられたといってもよい。だが民主主義は国家の意思決定を鈍重にさせる。そこで近代化で後れをとった国々は帝国主義戦争に生き残るために民主主義を放棄し、共産主義と全体主義に走った(戦前の日独伊、戦後のソ連)。

 一方、これに対抗しつつ米・英・仏では民主主義と資本主義が次の段階へ進化した。普通選挙(大衆民主主義)と福祉国家路線(修正資本主義)である。やがてそれは独禁法や市場規制で政府が市場を制御し、また政府が市場の失敗を補正し公共財を提供する段階に至る。

 長々と述べてきたが要するに現代の資本主義は民主主義、国家主義、官僚主義とがっちり有機結合している。そしてこれら4つが社会を制御する基本OSとなっているのである。

■「環境」と「中国」をめぐる4大OSの進化

 今後この4つのOSはどう変化するのか。前回(第89回)も触れたが中国という巨大実験場でさらに次々と進化するだろう。資本主義は常に拡大再生産のためのフロンティアを必要とする。そして地球上の最大のフロンティアは中国だからである。

 中国には強力な国家主義と官僚主義がある。だが民主主義と資本主義は発展途上だ。また資本主義は環境問題という大きな課題に直面している。となると中国の国家主義と官僚主義にとっての最大の課題は「弱い民主主義のもとで環境問題と資本主義の両立をどう達成するか」というテーマになる。

■日本の役割

 かくして中国を舞台に4つのOSは進化を迫られる。そこにおける日本の役割とは何か。環境技術や資金の提供だけではない。意外にも欧米に比べ“未成熟”といわれてきた日本の政治社会モデルが役に立つ可能性がある。

 戦後の日本は形の上では民主主義社会だが実質は自民党と官僚を両輪とする中央統制型の国家運営を行ってきた。周りに2つの中国と朝鮮を抱え、かつソ連と米国が対峙していた。その狭間で欧米型の本格的な民主主義は育たなかった。むしろ国家主義と官僚主義のもとで“日本型”の民主主義と資本主義を運用してきた。この「修正制御技術」がこれからの中国における実験の参考になるのではないか。

 中国でも、しだいに資本主義と民主主義が発達するだろう。その道筋を描く上で戦後日本の官僚と自民党による政治史が参考になる。“実質社会主義“と揶揄(やゆ)されるわが国の歴史が“実質資本主義”といわれる中国の参考になるのだ。日中友好には長らく歴史問題が立ちはだかってきた。だが、戦後日本の歴史を中国に伝えることでお互いの理解も進むのではないか。

(注)本稿の内容は筆者の私見によるものであり、大阪府もしくは特別顧問としての公式見解ではない。また特定の政党を支持する視点から執筆したものではない。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山信一

慶應義塾大学総合政策学部教授。運輸省,マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。専門は行政経営。2009年2月に『自治体改革の突破口』を発刊。その他,『行政の経営分析―大阪市の挑戦』,『行政の解体と再生』など編著書多数。