PR

 「行政刷新会議」と「事業仕分け」が鳩山政権の改革の切り札として期待を集めている。本格稼動はこれからだ。良し悪しの評価はまだまだ時期尚早だ。しかし筆者はこの数年来、大阪市役所(市政改革推進会議委員長)や大阪府(特別顧問)で数多くの事業の見直しをしてきた。その経験に照らし、国レベルの「事業仕分け」と「行政刷新会議」の意義と行く末について上下2回のQ&A方式で考えてみたい。

■問い(1) 国レベルの「事業仕分け」の意義は?

 意義は大きい。特に事業の中身や税金の使われ方が国民にわかりやすく説明される意義が大きい。大阪市役所の改革の場合でも「行政刷新会議」に相当する「市政改革推進会議」を作った。改革本部で1年半かけて67の主要事業を分析し、結果を公開討議した。

 会場は巨大な市立体育館だ。市長や幹部の出席のもとで企業経営者や学者の評価委員が自由に討議する。私は司会を務めたが討議経過が全面公開されるということでたいへん緊張感に満ちた見直し論ができた。そのときに使った手法は「事業仕分け」よりももっと本格的に事前準備資料を用意して行う「事業分析」だったが本質は同じだ。効果はてきめんだった。役所の論理や既得権益を公開討議に晒すことでこれまで封印されていた過剰人員配置や無駄な施設や補助金などの問題にメスが入った。外圧をテコに各部局レベルでの仕事や予算の自主的な見直しも進んだ。

 今回、民主党が国レベルでやる事業仕分けは小さな個別事業を市民目線で見直すときの手法である。政治案件の評価や政策判断はおそらく不可能だし、予算の削減額への過剰な期待も禁物だ。だが国民にとって何が必要な行政の仕事かが明らかにされる意味は大きい。

 「事業仕分け」は従来タブーとされていた行政の聖域に分け入り、「裸の王様」に対して国民目線で「裸だ」と問題提起する意味がある。国会議員が自ら取り組むという点も画期的だ。国会議員はこれまでは主に水面下での事業推進や利益誘導を仕事としてきた。だがこれからは全国的視野に立った行政改革の推進役に変わってもらう必要がある。晴れ舞台で議員が事業仕分けに取り組み、国民から拍手喝采を浴びるのはいいことだ。国民の意識改革、つまり国会議員イコール陳情というイメージ(JOBDESCRIPTION)を書き換えるという象徴的な意味もある。

■問い(2) 今回の事業仕分けで3兆円の予算削減はできるか?

 今のところ、候補に上がっている事業は小ぶりのものが多く、3兆円に届くかどうかは疑問だ。しかし事業仕分けの目的は本来、予算の削減ではない。事業のあり方を点検して問題提起することにある。同じ額を使うにしても民間に任せる、補助金を出す代わりに規制をかける、といった選択肢を広く考える。事業のあり方を見直すという作業はON-OFFで予算をつける、削るという査定作業とは本質的に異なる。そもそも行政刷新会議には事業の廃止や予算削減を決める権限がない。しかし予算編成では会議の結論を尊重しなければならなくなる。政治主導の改革の流れを作る意味が大きい。

 対象事業の規模や数は限られていても事業仕分けの発想法やものの考え方、議論の仕方が共有化される意味も大きい。政府全体に「事業はすべて見直して当然」という考え方が伝播していけば、数年はかかるが金額面でも大きな効果が出るだろう。

 ちなみに整備新幹線の建設の是非などいわゆる大玉は政治判断や価値判断を伴うものでもともと事業仕分けでは評価は不可能だ。これらは「事業」ではなく「政策」そのものである。「政策」の是非は国会できちんと議論すべきだ。また政策の見直しは事業仕分けのようにボランティアの民間委員が片手間でできるものではない。舞台をまず各省庁に移す。そして大臣直結の事業分析チームを置く。そこにコンサルタントや会計士を参加させ、ノウハウの提供を受ける。その上で実地調査を含む数ヶ月の作業を行う。大阪市役所でも大阪府でもこの方式で「大玉」の見直しに取り組んだ。(続く)

(注)本稿の内容は筆者の私見によるものであり、大阪府もしくは特別顧問としての公式見解ではない。また特定の政党を支持する視点から執筆したものではない。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山信一

慶應義塾大学総合政策学部教授。運輸省,マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。専門は行政経営。2009年2月に『自治体改革の突破口』を発刊。その他,『行政の経営分析―大阪市の挑戦』,『行政の解体と再生』など編著書多数。