経営者やマネジャー、リーダーが心得るべきマネジメントの作法は、年ごとに大きく変わるものではない。このため、マネジメント分野では毎年、普遍的な内容を扱う読み物がランキング上位を占める。
2009年もその傾向は基本的に変わらない。ランキングで1位だった記者のつぶやき「本当のことを言う」、3位の同「ムダと一緒に捨てたもの」、4位の同「スチュワーデスが見える席」は風化しない内容の読み物だった。
「金額では換算できない損失」
一方で、組織的なリスク・マネジメント体制の不備に起因するトラブル、さらに業界再編、IFRS(国際会計基準)に関する記事が目立った。トラブル関連で2009年に最も注目を集めた記事は、「[詳報]業績に大きな打撃、補償には適切に対応---三菱UFJ証券の秋草社長が会見」というニュース記事である(8位)。
この事件は、三菱UFJ証券システム部の部長代理だった元社員(2009年4月8日付で懲戒解雇処分)が顧客情報約148万人分を不正に取得し、約5万人分の情報を売却したというもの。三菱UFJ証券は情報漏洩による損失額が70億円以上になると見ている(「顧客情報流出による損失70億円超と試算、三菱UFJ証券」)。被害は単なる金額にとどまらない。「社会的な信用を傷つけられ、金銭では換算できない損失を被った」とする。
結局、元社員には懲役2年の実刑判決が下った(「元システム部社員に実刑判決、三菱UFJ証券の顧客情報流出 」)。 大きな事件であると同時に、「自社では同様の事件が起こる可能性はないか。可能性がある場合、どのような対策を打てばよいか」という問いをITプロフェッショナルに投げかけた。
ほかにもシステム関連のトラブルは目立った。東京工業品取引所では2009年5月と11月の2回、システムトラブルが発生した(「東京工業品取引所がシステムトラブルで全商品の立会を停止」「東工取でシステム障害、金に関連した取引を停止」 )。
加えて、社会保険庁(「「ねんきん定期便」3万人分に記載ミス、プログラムに不具合」)、ソニー生命(「ソニー生命、14万人分の顧客情報保存したPCを紛失」) 、JAL(「JALのチェックインシステムに障害,羽田中心に遅延・欠航相次ぐ」)、大阪証券取引所(「大証でシステム障害、先物取引の注文処理に遅延」)、アリコジャパン(「アリコ,最大11万件の顧客情報流出か,システム上の原因は特定できず)、かんぽ生命保険(「かんぽ生命、支払いミス4万8000件が判明、8月から顧客へ通知」)など大きなトラブルが多発した。
景気がどうであれ、今後ITがビジネスや社会により深く浸透していくのは間違いない。2010年には、システムトラブルやシステム関連の事件を未然に防ぐERM(エンタープライズ・リスク・マネジメント)の整備がより重要になるだろう。
サンとオラクル、そしてIFRS
業界関連で何と言っても大きかったのは、米オラクルによる米サン・マイクロシステムズの買収だ。日経コンピュータの谷島編集長が複数の記者に真相を問いただした「素朴な疑問、オラクルはなぜサンを買収したのか」が6位に入った。ニュースランキングでも8位だった(「[速報]オラクルが74億ドルでサンを買収」)。
実はニュースランキングの20位には「IBMがサンと買収交渉、米紙が報道」が入っている。結局買収したのはオラクルだったという意外さが、衝撃に拍車を掛けた。
ただし2009年12月時点でも、両社はまだ合併していない。EC(欧州委員会)が、両社の合併について詳細な調査に乗り出すことを決定したのがその一因である(「OracleのSun買収計画,ECが詳細な調査へ,最終判断は来年1月」)。これに対し、米上院議員が連名で迅速な調査遂行を要請する書簡を送っている(「Oracle-Sun買収計画,ECの長引く調査に米上院議員が迅速な決定を要請」)。
こうした状況の中、日本でもIFRS(国際会計基準)に対する注目度が高まってきた。ランキングに「今さら聞けない国際会計基準「6つの疑問」」(11位)、「「P/L」と「B/S」がなくなる日」(18位)、「なぜ国際的な会計基準が必要なのか」(19位)と三つも入ったことが、その状況を裏付けている。
金融庁は2009年6月に日本でのIFRS適用に関するロードマップを公表(「「2015年から段階適用の可能性も」、金融庁がIFRS適用の中間報告公表」)。12月にはIFRSの任意適用についての内閣府令を公表、2010年3月31日以降に終了する事業年度からIFRSを適用できることを明確にした(「IFRS任意適用の条件を金融庁が公表,時期は10年3月期からに決定」)。2010年には、IFRSの本格採用に向けた企業の活動が本格化しそうだ。