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プロジェクトマネジメントの中で「重要だと知りながら,うまく実践できていないこと」の筆頭にあるは「リスク管理」だろう。取り組んだとしても,プロジェクトの初期にリスク管理表を作っておしまい,というケースが多すぎる。これでいいはずはないが,一体なぜ,そうなってしまうのか。

後藤 年成
マネジメントソリューションズ マネージャー PMP


 PMBOOKやプロジェクトマネジメント研修,書籍などで学習したことがある方は,必ずと言っていいほど「リスク管理」の重要性について語ります。それは皆さん周知のことでしょう。プロジェクトマネジャやPMOにとって,リスク管理は疑いなく重要な責務の1つです。

 しかし,リスク管理の重要性について,頭では重要だと分かっていても,プロジェクトの現場ではなかなか真剣に取り組めていないのが実情でしょう。筆者の経験から言って,名だたるシステム・インテグレータや大手企業であっても,PMBOKやプロジェクトマネジメントの書籍通りに,まじめにリスク管理を実施できている現場はほとんどありません。今回は,なぜリスク管理にまじめに取り組まれないのか,その理由を探っていきたいと思います。

 さて,リスク管理がうまくいかない理由として,会社の文化や業界の慣習,さらに言ってしまえば日本の国民性など,さまざまな原因を挙げることができます。これはこれで議論に値するテーマではありますが,ここでは「なぜ現場でリスク管理がうまくいかないか」というミクロの視点で考えてみたいと思います。筆者の経験から,次の7つの理由が考えられます。

[理由1]リスクは一意に特定,定義できない
[理由2]リスク管理のやり方が分からない
[理由3]標準タスクだからやるのであり,裏を返せば「やらされ感」がある
[理由4]リスク管理の成果が見えない
[理由5]メンバーにとっては余計な負担
[理由6]管理者にとっては,本当にやる意義があるのか確信が持てない
[理由7]“作りっぱなし”の最たるもの

 上記の7つの理由は,最初の2つの技術的な理由と後の5つの心理的な理由に大きく分けることができます。それでは,それぞれの理由についての詳細を考えてみましょう。コラムにおいては解決策までは記載しませんが,他に理由はないのか,あなたならどうするか解決策を考えながら読んでみてください。

[理由1]リスクは一意に特定,定義できない

 最初の理由は,そもそも「リスクとは何か分からない」という理由です。PMBOK(第3版)ではリスクを『もし発生すれば,プロジェクト目標にプラスあるいはマイナスの影響を及ぼす不確実な事象あるいは状態』と定義しています。

 皆さんの現場で「このリスクの定義に従ってプロジェクトにある一番大きなリスクを1つ挙げてください」と問いかけたとしたら,どうなるでしょうか。おそらく10人が10人とも同じリスクを挙げることはまずないと思います。なぜならば,その人の立場や視点,今までの経験,あるいはプロジェクトにかける思いや生まれ持った性格によって,リスクの捉え方が違うためです。

 この,一意に特定できないリスクの性質が「管理」のハードルを高くしています。ただ単に「プロジェクトが遅延するリスク」と言ってもさまざまな原因が考えられますし,そのどれもが100%正しくもなく,100%間違っているとも言い切れません。この特性がリスクを「つかみどころのないもの」にしてしまっているのです。

[理由2]リスク管理のやり方がわからない

 2つめの大きな理由として,リスク管理のノウハウがないという現実があります。品質管理や進捗管理と比べれば,圧倒的に不足していると言っていいでしょう。もちろん,PMBOKなどの知識体系があり,どんな作業をどのような順番で実施するかまでは記載されています。とはいえ,どうすれば効果的に実施できるかという「How To」の部分は,実際に関与したメンバーの経験として蓄積していくしかありません。

 つまり,知識として「何をすればよいか知っている」ということと,実作業として「滞りなく効果的に実施できる」との間には大きな溝があるのです。リスク管理の「How To」本はたくさん出ていますが,書籍どおりに実施できず頓挫してしまうのはそのためです。

 上記の2つのできない理由は,どちらかというと知識やHow Toなど,テクニック的な面が強いものです。だが,本当にリスク管理が定着しない理由は,[理由3]~[理由7]の心理的な要因が大きいと筆者は考えています。