リスク管理の重要性については,頭では重要だと分かっていながらも現場のプロジェクトではなかなか真剣に取り組めていないのが実情だ。前回は,リスク管理がまじめに取り組まれない理由のうち,前半の4つの理由を見てきた。今回は,リスク管理がなぜ現場でまじめに取り組まれないのか,その残りの理由について考えていきたい。
マネジメントソリューションズ マネージャー PMP
前回のおさらいとして,リスク管理がまじめに取り組まれない7つの理由を再掲します。下記の7つの理由は,最初の2つの技術的な理由と後の5つの心理的な理由に大きく分けることができます。今回は,心理的な理由にあたる[理由5]~[理由7]を皆さんと一緒に考えていきましょう。前回と同様,解決策までは言及しませんが,「ほかに理由はないのか」「あなたならどうするか」を考えながら読んでみてください。
[理由2]リスク管理のやり方が分からない
[理由3]標準タスクだからやるのであり,裏を返せば「やらされ感」がある
[理由4]リスク管理の成果が見えない
[理由5]メンバーにとっては余計な負担
[理由6]管理者にとっては,本当にやる意義があるのか確信が持てない
[理由7]“作りっぱなし”の最たるもの
[理由5]メンバーにとって,リスク管理作業は余計な負担
一般的にリスク管理は,事前にリスクを洗い出してそのリスクに対する予防策を考えます。しかし,そのリスクの予防策を実施するメンバーにとっては,新しいタスク(負担)となってしまいます。
しかも,リスク予防のために実施するタスクは,プロジェクトに必要な成果物に直結しません。さらにリスク管理というのは,前回の[理由4]でも述べた通り「成果が見えづらい」という特徴があります。リスクの予防策の実施を任された担当者にとっては,目の前のアウトプットがはっきりしている作業を優先しがちです。
また,リスク予防策はそれ自体実施しなくても,目に見えて進捗が遅れるといった実害がありません。「まぁ,時間があるときに実施しよう」という誘惑にとらわれてしまいます。普通,リスク対応は「緊急でないけれど,重要な事項」に分類されます。担当者が「緊急でないけれど,重要でない事項」と勝手に重要度をすり替えてしまわないよう,リスクに対する予防策の重要性,すなわち「リスクの予防策を実施することは重要なタスクなんだ」という意識をしっかりと持ってもらう必要があります。
[理由6]管理者にとっては,本当にやる意義があるのか確信が持てない
リスク管理を推進するPMOとしての立場で,リスク管理を見てみると[理由5]で述べたように目の前の作業に追われているメンバーに向かって「リスク対応の計画を立ててください」とか「リスク対応が進んでないので計画通り実施してください」とはなかなか強く言えません。筆者もリスク管理者として「今,この忙しい時期に,本当にリスク対応なんかをやるべきなんだろうか?」と自信が揺らぐ経験を何回もしています。
しかし,結果論ではありますが,今思い返してみれば,「あの時リスク対応をしていれば,トータルでスケジュールが遅延せずに済んだし,余分なコストを抑えられた」と後悔することがあります。
例えば,「要件定義フェーズで確定した要件が設計フェーズで変わる危険性がある」というリスクがありました。その予防策として,「要件定義フェーズの最後に全体の要件を横串で確認する全体確認会を開催し,要件の漏れを防ごう」という対策を計画しました。しかし,要件定義フェーズが遅れ,全体確認会を開催する時間的余裕がなくなり,計画した予防策は実施しませんでした。
その結果はどうだったでしょうか。案の定,設計フェーズにて機能間の連携が取れていないことが発覚し,設計フェーズが3カ月延期になりました。リスク予防策を実施するための1週間を惜しんだばかりに,3カ月の遅延を招いてしまったのです。
万が一,リスク予防策を実施していたとしても,それなりの不整合が発生したかもしれません。それでも,3カ月も遅れることはなかったはずです。