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村上氏写真

村上 智彦(むらかみ・ともひこ)

 1961年、北海道歌登村(現・枝幸町)生まれ。金沢医科大学卒業後、自治医大に入局。2000年、旧・瀬棚町(北海道)の町立診療所の所長に就任。夕張市立総合病院の閉鎖に伴い、07年4月、医療法人財団「夕張希望の杜」を設立し理事長に就任同時に、財団が運営する夕張医療センターのセンター長に就任。近著書に『村上スキーム』。
 このコラムは、無料メールマガジン「夕張市立総合病院を引き継いだ『夕張希望の杜』の毎日」の連載コラム「村上智彦が書く、今日の夕張希望の杜」を1カ月分まとめて転載したものです(それぞれの日付はメールマガジンの配信日です)。運営コストを除いた広告掲載料が「夕張希望の杜」に寄付されます。

2009年8月7日

テレビを見ていると「マニュフェスト」という言葉が沢山出てきます。

政権交代、政界再編、社会保障の充実、景気対策、安心安全、消費税等、流石に今回の選挙では高齢化が進む日本で、今後の進むべき道を選択する時が来ているように思います。

ある政党が「子供に夢を、大人に希望を、高齢者に安心を」と、とてもいい言葉を使っていました。

私はこんな商売をやっていますので、景気、景気と高度成長期の夢を追うより、世界一高齢化が進んだ国での社会保障を充実させる社会の構造変換や意識改革が必要だと思っています。

ある経済に詳しい方に聞いた話ですが、「社会保障が充実していたら、その為の雇用が生まれ、1500兆円と言われる預貯金を使う人が増えて景気は良くなる」といった内容でした。

もちろんそんなに単純ではないにしても、福祉の充実した北欧では高い税金を払っても納得している人が多いという印象があります。

その様な話をすると「以前○○をやっている人達はどうする?」といった意見が必ず出てきますが、それを言っていたらいつもでも先送りで、新しい社会構造は作れません。

明らかに人口構成が変わっていて、世界的に見ても周囲の情勢は変化していますから、前のやり方が通用しないのは何となく理解できます。

「時間がかかる」「徐々に理解していく」といった一見大人の意見も、危機的な現状を考えますとそんな時間的な余裕はなく、要するに反対で、以前のやり方の方が楽だからそうしているように思えます。

誰かのせいにするのも簡単ですし、出来ない理由はいくらでも出てきます。まさに夕張がそうだったし、今でもその様な意見が多いので、余計にそう思えます。

破綻してもなおそう言っている人達が多いから破綻しただけの話です。これを「民意」というのでしたら、税金を使わないで自分達の負担でやっていただきたいと思います。

無駄遣いを止めて十分に予算をとり、高齢化に備えた人材を育てる事にお金とエネルギーをかけて欲しいと思います。

医療や福祉を充実させるためにもっと予算をかけるべきです。ただし、負担もすべきです。

安全と水はただではありませんし、安くて高品質で安全という話は世界ではあり得ない非常識です。

もう次の世代に借金を残して今までのやり方に拘るより、社会保障や環境対策、農業にもっと目を向けて、世界一の長寿国として充実した人生を送れるようにしていけたらいいと思います。

日本中が箱物の残骸と借金が沢山転がっている夕張市の様になってしまいます。

自ら選択した結果に文句を言い責任を取らないのであれば、次の世代に迷惑がかかるのは当然です。「知らなかった」では済まされません。

私が借金を負って、リスクを負ってここへ来た目的は、そんなモデルを北海道で作りたいという想いがあったからです。

私は何処の政党でもいいので、国会議員として選ばれた人が頑張って真剣にそんな事に取り組んでくだされば十分です。

個人的には、何度も現場に足を運んで真剣に地域のために頑張って下さった方やりにも現場の事を知らない人達が政策を決めてきたので、

現場で汗をかいている人達が報われるようにして欲しいものです。

2009年8月14日

8月に入り、夕張医療センターから紋別市で始まった休日夜間急病センターに永森先生が中心になり支援に行く事になりました。

紋別市も他の地域と同様に医師不足等で公的医療機関が疲弊し、医療崩壊の危機に直面していました。そんな中、地元の医師会の皆さんが連携して地域の医療を支えていました。

その後首長さんや議員さん、行政の担当者が立ち上がり、一次救急を地元で担っていくための施設を準備して、住民も医療を支える会を結成する状況となり、それに我々も協力していく事になりました。

北海道の自治体で行政、議会、医師会、住民が話し合いの場を持ち、地域医療を考えるというのは当たり前のようですが、とても稀なケースだと思います。

殆どの場合誰かを悪者にして話が終わってしまいます。

夕張で始めてなかなか広がらない「命のバトン」はあっという間に議会で認められて紋別で使われる事になりました。やはり地域力の差というのは大きなものです。

(編者註:「命のバトン」とは、持病や服用薬などの医療情報を容器に入れて冷蔵庫に保管する「救急医療情報キット」のこと。これがあると救急隊はとても便利。詳しくはこちらのサイトをご覧ください)

紋別市は主要産業である漁業や海を守るために、まず森林を整備しているような環境意識の高い地域です。そんな住民の皆さんの地域への愛着の強さが関係しているように思えます。

先日私も短い時間でしたがお手伝いしてきました。地元の消防隊の方やマスコミの方も来て下さり、7~8人の地元の方や観光客が患者さんとして来ていました。

紋別市は観光地でもあるので、休日や夜間の救急体制は産業にも重要だと感じました。

私達の支援の目的は地元の医師会の皆さんの負担を減らすことと、破綻して医療崩壊した地域の第3者として 

  • 地元にかかりつけ医を持ち、医療資源を大切に使うこと。
  • 健康意識を高めて、環境を生かして生活習慣の改善に取り組み、地元で検診を受けるようにすること。
  • 将来の高齢化に備えて福祉を充実して、医療と連携できるように人材を育てること。

といった事を住民に働きかけるのが目的です。

当事者同士だけで話し合いをすると何かと話が進みませんが、破綻の経験者の声として語りかけたら説得力があるように思えます。

医師だけではなく、地域で不足している看護師も夕張から同行してもらい一緒に働きました。今後は医療再生の現場で在宅をゼロから立ち上げた経験を持つ看護師さん達の派遣も「支える医療」の大切な支援になるように思えます。

私達の役割はあくまで立ち上げのお手伝いをして、その後は地元で医師や看護師が確保できるような環境を自らが作り、それを我々がサポートしていく事だと思います。そうする事で安心して地域に来るような人材が増えてくれたら嬉しいですね。

反対に私達のところへ研修に来る方の新たな研修先になってもらいたいと地元の医師会の方にはお願いしました。

きっと紋別の素晴らしい自然環境や北海道らしい雄大なオホーツク海の風景、新鮮で美味しい海産物は北海道に憧れて来る方の魅力になると思います。

夕張希望の杜からの支援はすでに離島も含めて随分増えてきました。公的機関に限らず、地域を支える人達が疲弊しないように色々な形で支援していきたいと思っています。

その様な仲間が北海道で増えていく事を祈りながら、もう少し頑張っていきたいと思います。

2009年8月21日

お盆休みは私が当直で、夕張で高校野球や64回目の終戦記念日の番組を見ていました。お盆らしく急患はお盆休みで帰省中の方が何人か受診していました。

13日、14日は上川の剣淵町の支援に行っていました。旭川や士別には身内がいますので、案外何度も通った事のある町で、実情も知っていましたので、私にとっては馴染みのある町です。

剣淵町は札幌から約180km、車で約2時間の距離です。旭川から45kmで高速道路が通っていますので、案外交通の便がいいところです。夕張市からは岩見沢まで行き、高速に乗って3時間ほどで着きました。

人口は3729人(平成21年6月30日)の農業の町です。以前は5000人を超える人口も過疎化、少子高齢化が進み、合併の話も出ていました。

観光地としては、国道沿いの道の駅や桜岡という地区に灌漑用の人造湖の周辺に温泉ホテルやパークゴルフ場、キャンプ場があります。温泉も豊富で、カヌーも楽しめるとても静かで自然豊かな景勝地です。

剣淵町は絵本の里として、絵本の館というとてもユニークな展示場や多数の絵本の原画を所蔵していて、子供達への教育に熱心な印象があります。

保健・医療・福祉の分野では「ふれあい健康センター」という施設に診療所やパワーリハビリの施設等もあり、地域包括ケアのハードは充実しています。診療所は有床でしたが、医師の確保が困難で現在は無床の診療所となっています。

隣町の士別市に市立総合病院があり、旭川までも近いので、従来の発想では入院施設を持つのには人的にも経済的にもかなり無理があると思います。

剣淵町は北海道の中でも検診の受診率が高く、保健師さん達は頑張っています。

短い時間でしたが町創りに熱心な役場の職員の方や保健師さんが宿泊先のホテルまで来て下さり、熱く語り合ってしまいました。

翌日の午後にアルパカがいる牧場があるとの事で出かけました。アルパカはラクダの仲間で、北海道では珍しい存在です。

比較的小柄で大人しく、目が大きな動物で、赤ちゃんはとても可愛いので一見の価値はあります。

アルパカのセーターは高級品ですが、繁殖もしていて、アルパカ牧場を作る計画もあるそうです。

外へ行くのは大変ですが、その分沢山の出会いや発見があります。夕張を基準にしているとがっかりする事が多いのですが、外に出ているとここは特別な地域だと改めて強く感じます。

いつも外に目を向けて、視野が狭くならないように普通に仕事を進めていくつもりです。

剣淵町の道の駅で売っていたソフトクリームやスモークチキンやソーセージはとても美味しかったですし、駅前のラーメン屋さんはテレビに出るくらい有名なのだそうです。

旭川方面に行く予定のある方は、是非足をのばしてみてください。

2009年8月28日

先週末私は長野に行ってきました。記念講演では慶応義塾大学経済学部教授の金子 勝先生が、「地域の再生・地域医療の再生」という演題で話をして下さいました。

いつもテレビで見ている先生で楽しみにしていましたが、非常に刺激的で、分かりやすい講演だったと思います。

私は2日目の地域医療研究会の第5分科会 研修問題というパートにパネリストとして出席しました。

医療崩壊の原因の一つが新臨床研修制度と言われています。以前の研修制度では、医学部を卒業した人達の多くは大学の医局に入り、殆どの人が専門医になっていきました。

しかし、新しい制度では医学部を卒業した人が2年間色々な科を回り、幅広い臨床能力を身につける事を要求されています。

その結果、大学に残る人が減り、大学からの医師派遣に頼っていた地方の医療機関の医師不足に拍車がかかった状態になりました。

私は研修制度を変更するための準備や予算が足りなかった点を除いては、この制度の趣旨はそれほど悪いものだとは思っていません。

研修医が残らない大学の側には問題はなかったのか?研修が充実していたのか? といった疑問もあります。

そして医師を大学から受けてきた側の地域も大学にお願いするだけで、高齢化が進む自分の地域の医療がどうあるべきか?福祉をどう充実させていくか?といった事を考えてこなかったと思います。

今ある制度に不満を持ち、それでいて制度が変わると大騒ぎするといった点では、他の分野と同じで、結局先送りして旧態依然とした既得権益を守る様になってしまい、新しい時代に適応できなくなっていきます。

医師の専門性というのは別に法律で規定されているものではなく、ある意味他の科を診なくても済む言い訳にも使われています。

最低限の救命処置ができる事や、例え専門性があっても普通の生活習慣病や日常のトラブルへの対応ができる事は大切なことだと思います。

日本人は専門家が好きですが、専門家がいたら平均寿命が長くなったり病気が減るわけではなく、住民自身の健康意識の方が大切だと思えます。

需要と供給のバランスから考えても明らかにミスマッチがあります。住民のニーズと言われている要求は、必ずしも住民の医療ニーズとは一致しません。

(住民の)相応の負担が無いニーズは、いつか(供給する側が)崩壊してしまいます。

新しい研修制度では地域医療研修というのが義務付けられていて、短い間ではありますが地域の住民の生活と距離の近い関係の中で支えていく医療の姿を経験する事が出来ます。

その事は専門家であろうと、総合医であろうと必要な事だと思います。

また、経験の少ない若い医師というのは、新社会人でもありますから地域が自ら医師を育てるといった視点も必要なのではないでしょうか。

現状に合わせた改善は必要だと思いますが、昔の仕組みに戻したり、ただ単に医師の数を増やしても、高齢化が進み住民の権利意識が肥大化した状態ではあまり現状が改善しないように思えます。

リスクが大きく、収入の少ない科の医師は増えませんし、その様な環境を作ったのは住民やマスコミ報道だったのですから仕方ない事です。

そろそろ現場の医師の犠牲や良心に依存する仕組みは止めて、行政や住民も一緒に限られた医療資源を利用できるようにしていく事が必要なのだと思います。

新しい名刺をたくさん頂いてきました。久しぶりの再会もあり、暑くて移動は大変でしたが、実りのある週末を過ごせました。