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顧客視点がなければ意味はない

 どうしてそんなに上から見下すのだろうか。使いづらい部分を顧客が指摘しても「仕様に無い」とはねつけ、顧客が小さくなってへりくだっても意に介さないプログラマたちがいた。谷口にとって、こうした光景は異様なものだった。

(写真:菅野 勝男)

 たくさんのことをあきらめ、残された選択肢の中から選ぶしかなかった谷口は、物事の本質を見極めなければならない場面にしばしば出会ってきた。谷口は自身にプログラマの本質を問うてみた。「使ってもらえなければ何の意味もない」という答えしか出てこなかった。

 写真家志望だった谷口はクリエーター気質があり、見やすく、使いやすいシステムの開発を何よりも重視するようになった。思った通り、顧客に喜ばれ、リピートオーダーをもらえるようになった。

 インターネットの黎明期である93年からインターネットの可能性を研究し始め、その魅力に取りつかれた。サイト構築の経験などから、今後のプログラマにはマーケティングの知識も必要と感じ、谷口は独学で勉強を始める。人気サイトの条件を研究するうちに、セミナーの講師に招かれることも多くなってきた。

 谷口は自身の半生を次のような言い方で振り返る。「社会人になっても、夢の中の僕は健常者のままだった。どこかで車椅子の自分を認められず、健常者だった過去の自分をあきらめられなかったのだろう」。

 そんな谷口に大きな変化が訪れたのは、ここ最近のことだ。

 「独立して事業が軌道に乗り始めたころから、夢の中の僕が車椅子のまま現れるようになった。うまく行き始めたことが先か、夢の中の車椅子の僕が先かは忘れてしまったが、心の奥底であきらめきれなかった自分を、ようやくあきらめられたのかもしれない」。

谷口 浩一(たにぐち・こういち)
チームデルタ代表取締役
1960年生まれ。81年にアルバイト先の自動車工場で車の下敷きとなり、以後、両足の麻痺で車椅子生活となる。国立職業リハビリテーションセンターを経て89年千葉データセンター入社。93年から東洋エンジニアリングにて黎明期のインターネットの研究、Webアプリケーション開発、企業サイト構築などに従事。2006年チームデルタ設立。200件以上のサイト構築を行う。