メーカーが生産する製品が、販売店によって品質が異なるということはない。今、街中に多くの量販店があるが、同じメーカーの同じ製品であれば、その品質に違いはない。
例えば、電化製品の場合、量販店は価格や商品説明、保証などのサービスで差異化し、量販店間で製品の販売競争を展開している。しかし、もし製品の品質が製品単位で異なれば、また消費者はそれを事前に確認することができなければ、そのような製品を購入することはないし、量販店もそれを販売しない。このようなことから、メーカーにとって、新製品を世に送り出すこともできなければ、生産性向上もできないことから、品質管理は最も重要な機能の1つとなる。
サービス品質を管理することの困難さ
一方、ここで議論するサービス産業は少し状況が異なる。よく言われることであるが、サービスは顧客が求めるときにしか提供できない「同時性」、そして目で見ることも触ることもできない「無形性」などの特性がある。このため、人はサービスが提供される前にその品質を確認することができず、サービスの品質を知ったときにはサービスの消費が完了し、満足が得られようが、満足が得られまいと、その対価を支払わなければならない。
このように、製品と異なる特性を持つサービスを提供するサービス産業にとっても、事業を安定的に継続するには、提供するサービスの品質のムラを解消することが非常に重要になる。なぜなら、もし提供を受けたサービスが素晴らしければ、それは顧客満足につながり、再び同じサービスを人は利用する。しかし、もし次に同じサービスを受けたとき、その品質が悪ければ、同じサービスをその後も継続的に利用し続けることはなくなるからである。
あるネットショップの試み
このような問題意識から、これまで多くの量販店が「価格の安さ」にサービスの価値を訴求してきたのに対して、サービス提供のチャネルを変え、サービスの品質を最大の価値と位置づけ、近年、急速に成長しているネットショップ「紀伊国屋文左衛門本舗」を運営する、とち亀物産を今回は紹介する。
とち亀物産は、江戸時代の商人である紀伊国屋文左衛門の生誕の地である和歌山県有田市湯浅町にある。元々は蒲鉾(かまぼこ)などのねり製品を製造していたが、その後は食品卸から流通へと業態を変化させ、2000年5月からインターネット販売を展開している。梅干から生梅、シラス、マグロなどの地元の特産品を中心に扱っているが、現在の販売主力商品は地元の有田みかんである。
今、サイト運営は順調であるが、インターネット販売を開始した当初は全く売れず、赤字経営が続いたという。状況を打開するために、売りたい商品にこだわるのではなく、顧客が望んでいる商品は何かを調べ、またセミナーなどで商品を配り、どのようなみかんがおいしく、その食べ方を話し、消費者の反応を見続けた。
地元では誰もが知っていることであるが、みかんは小さいほうがおいしい。また、傷のあるみかんは、木の外側でなっているものが多く、太陽を多く浴びていることからよりおいしい。さらに、日本は一般に風土の変化が大きく、同じ地域でも、斜面の向き、土壌の違い、手のかけ方に差がでる兼業農家と専業農家でも味が変化する。
しかし、小さいみかんや傷のあるみかんは今の流通構造の中ではねられてしまう。また、多くの農家から大量に集荷し、それを量販店に一括して販売することから、生産者単位の味のムラを管理することができにない。このため、食品スーパーで販売されている袋詰めされているみかん一つひとつの味にムラが出る。