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SNSサイトも開発環境のオープン化を競う

 米国でフェイスブックがAPIを公開し,サイト上のアプリケーションを自由に作成することを可能にする“オープン化”を発表した2007年5月当時,SNS市場ではライバルSNSである米マイスペースの「MySpace」が圧倒的なプレゼンスを誇っていた(図1)。しかし現在,正確な数値は公表されていないものの,様々なデータから世界最大のSNSの地位をFacebookが奪取したという見方が一般的だ。

図1●SNS市場における国内外関連企業の動き
図1●SNS市場における国内外関連企業の動き
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 Facebookは,開発プラットフォームのオープン化により,アップルと同様に多くの優秀な開発者を瞬くうちに獲得した。今やFacebookには,180カ国以上から100万人以上の開発者が集まっており,アクティブなアプリは35万以上あるという。また,月間アクティブユーザーが100万以上のアプリも250存在するというから,これらのアプリが広告を主にするFacebookのビジネスモデルに大きな役割を果たしていることも明らかである。

 Facebookは,Facebook Markup Language(FBML)とFacebook Query Language(FQL)という開発環境と,様々なAPIをオープンにしている。一方,環境のオープン化以外の取り組みも盛んだ。例えば,Facebook開発者向けサイト内のオンライン・フォーラムでは,Facebook関係者による関与も含め,ディスカッションが非常に盛り上がっている。また,「fbファンド」と呼ばれるフェイスブック主催のアプリケーション・コンテストでは,同社が総額1000万ドルのファンドを設立,Facebookアプリを開発するスタートアップ企業を対象に,およそ2万5000ドルから25万ドルの補助金を拠出している。

 一方,フェイスブックを追う立場となったマイスペースは,グーグルが提唱するソーシャル・サイト向けアプリの共通プラットフォーム「OpenSocial」を採用し,やはり開発環境の公開というスタンスからサードパーティとの連携を図る。

 2009年8月からは,日本のミクシィもOpenSocialを採用した。ミクシィの開発環境公開からはまだ日が浅いが,すでに「サンシャイン牧場」などの大ヒット・アプリを出しており,パソコンからの利用者のサイト滞在時間がこれにより大きく拡大した。ミクシィもフェイスブックと同様にアプリ・コンテストを開催するほか,開発者向けの説明会も行っており,リアルな場での情報提供にも積極的だ。また同じく8月には,携帯向けポータルサイトで高い人気のモバゲータウンもAPIを公開し,こちらもOpenSocialを採用している。

通信事業者も開発者連携の取り組みを

 世界の通信事業者も,自社の通信サービスを便利に利用してもらうためにサードパーティとの連携を強化している。

 日本ではNTTが,「次世代サービス共創フォーラム」の一連の取り組みの中で,オンラインとリアルの両方の場による「開発コミュニティ」を立ち上げ,事業者が開発者とともに新たなサービスを創り出す場を展開している。また,優れた開発者に対する事業化の支援も行っている。NGN(次世代ネットワーク)を活用したアプリケーション開発を容易にする開発ツール「SUPREE」シリーズの提供で,2009年2月にソフトフロントへ出資したのもこの一例だ。

写真1●SUPREEを使用してソフトフロントが開発した「シンプル・セキュアテレビ会議アプリケーション」
写真1●SUPREEを使用してソフトフロントが開発した「シンプル・セキュアテレビ会議アプリケーション」
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 SUPREEシリーズは,NGN対応アプリケーション開発に必要なコンポーネントを一つのパッケージにまとめて提供した開発環境で,商用利用までは無償で利用できる。わずか数十行のHTMLコードで,ビデオ会議機能をWebサイトに組み込むこともできる。ビジネス向けのテレビ会議アプリケーション「HelloMeeting」(写真1)の提供や,イリイのCTIコネクターなど具体的なアプリケーション開発も進んでいる。

 同様に欧州では,メッセージ系や呼制御系のAPIの公開の動きがみられる。BTはFlashベースの通話技術を持つシリコンバレーのベンチャー企業の米リビットを買収。これを開発者向けに提供することで,従来にない新たな音声の利用シーンを打ち出したい意向だ。リビットの開発者がアクセスできるオンライン・コミュニティも意見交換が活発である。ここでもリビットの関係者がコミュニティを盛り上げる様々な関与をしている様子が伺える。英ボーダフォンの「Betavine」や,仏オレンジの「Orange Partner」などにも動きがみられ,各通信事業者はSNSでのツール提供やアプリ・コンテストや人気ランキングの公表など,開発者コミュニティの活性化を支援する動きがみられる。

 テレコム業界団体のParlay Xグループでは,NGNなど通信事業者の標準的な網機能と,Webなど様々なインタフェースを連携させるAPI仕様の策定に動いており,こちらもベンダー企業を中心にオフラインでも活発なコミュニティ活動がみられる。

 今回,紹介してきたモバイル・アプリ,SNS,通信業界のいずれの例においても,自社のコア・ビジネスを生かすためにサードパーティの開発者との協業を進めようとしている。今後もサービス・プロバイダの競争戦略に関して,外部開発者はますます重要な役割を果たすことになろう。そして,開発環境を開放する「オープン化」や,情報提供やデベロッパー同士の情報交換をする「コミュニティ」など,開発者を巻き込むための施策は,エンドユーザーのし好の変化が激しいこの時代において競争優位の源泉になっていくのではないだろうか。

水野 秀幸(みずの ひでゆき)
情報通信総合研究所 副主任研究員
金沢大学を卒業後,1997年にNTT入社。企業向けのシステム構築やコンサルティング業務を経て,2002年に流通科学大学流通科学研究所の客員研究員として,トップセールスマンのノウハウ共有に関する産学共同研究に参画。2005年から現職。米国を中心とした新興サービスやクラウド・コンピューティング,ベンチャー企業に関する調査研究やコンサルティングを行っている。

  • 情報通信総合研究所は,情報通信専門シンクタンクとして情報通信をめぐる諸問題について,解決型の調査研究を中心に幅広く活動を展開しています。

■変更履歴
記事公開当初,「アップルのテレビCM(2009年11月末)によると,9万以上のアプリが利用できる」としていましたが,より正確な「アップルのリリース(2009年11月)によると,10万以上のアプリが利用できる」という表現に改めました。本文は修正済みです。 [2009/12/18 12:30]
記事公開当初,表1中に記述されている年号が「2207年」「2208年」「2209年」となっていましたが,それぞれ「2007年」「2008年」「2009年」でした。お詫びして訂正します。表は修正済みです。 [2009/12/18 15:45]
記事公開当初,シリコンバレーのベンチャー企業名を「米ラビット」としていましたが,正しくは「米リビット」でした。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2009/12/21 19:15]