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新聞は、日本人を賢くする業種に転換できる

 具体的な“ユーザー企業”として、引き続き新聞社と生命保険会社の例を挙げます。

 もし新聞社が自らを「総合メディア産業」と再定義したとしても、事業構造が変わるとは思えません。こうした第三者的な再定義は、戦略と一体化していないからです。

 例えばですが、「日本人をより賢くする業種」と再定義してみたらどうでしょう。新聞と並んで有力なメディアであるテレビは、その番組内容を考えると、決して視聴者を賢くするものではないような気がします。もちろん全番組がそうだとは言いませんが…。テレビに広告を出す広告主は、コマーシャルを見て「つい商品を買ってしまう」という層に対する訴求力をスポンサーは期待しているわけですから、多くのテレビ番組はとにかく視聴率を稼げる番組を企画するはずです。

 雑誌の多くも同様で、広告ページの広告主が期待する対象層がつい買ってしまうような切り口、内容になる傾向があります。インターネットはさらに特殊で、テレビにおけるチャンネルや、雑誌における出版社・雑誌名といった存在の意味がほとんどありません。利用者は勉強にも趣味にも犯罪にさえ使うことができるメディアです。

 こう考えてみると、日本人を賢くしてきたメディアは、やはり新聞なのではないでしょうか。おそらく新聞社の中には、論説委員や編集委員、記者などが生み出す高度なインテリジェンス(情報)が存在しているはずです。

 ニュースを伝える、事実を伝える、生活の知恵を紹介するといった機能では、新聞は他メディアとの競合で相対的地位を下げているかもしれません。「社説」などを通じた政治問題などについての意見表明に対しても、かつてほど国民の共感を得られなくなっています。

 しかし、日本人をより賢くする役割については、私はまだまだ可能性があると思うのです。ニュース・事実・知恵を伝える機能に加えて、読者の思考を支援し、議論の材料を提供する機能をもっと強化できれば面白いかもしれません。

 日本人は総じて「社会保障か増税か」といった、トレードオフの関係にある問題について考えるのが不得手です。新聞社の機能・インテリジェンスを有効に使えば、これを支援できるかもしれません。例えば、社会保障の充実を求める今日の新聞記事に対して、増税が必要だという事実や試算、調査結果などについての記事を後日載せて論点を明確にするといったことが考えられます。そのためには、試算や調査のための情報システム・ウェブサイトを強化する必要があります。

 もちろん、これは1つの仮説にすぎません。ほかの再定義の仕方があってもいいのです。ただし、「総合メディア産業」のような戦略と一体化しない再定義では、“ユーザー企業”としてどこに情報システムを使えばいいのか、はっきりしないことは確かです。

 次回は、生命保険会社の「自らを再定義する戦略」について説明します。

次回に続く

佐藤 治夫(さとう はるお)氏
老博堂コンサルティング 代表
1956年東京都武蔵野市生まれ。79年東京工業大学理学部数学科卒業、同年野村コンピュータシステム(現野村総合研究所)入社。流通・金融などのシステム開発プロジェクトに携わる。2001年独立し、フリーランスで活動。2003年スタッフサービス・ホールディングス取締役に就任、CIO(最高情報責任者)を務める。2008年6月に再び独立し、複数のユーザー企業・システム企業の顧問を務める。趣味はサッカーで、休日はコーチとして少年チームを指導する。