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 情報システムの“ユーザー企業”にとって、情報システムをどう活用すれば競争力を強化できるのか。ITベンダーやシステム・インテグレーターなどの営業トークや提案内容を見極めるうえで何に留意するべきか。ITベンダーなどに何かを求める以前に、“ユーザー企業”が最低限考えなればいけないことは何か――。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務め急成長を支えた著者が、情報システムの“ユーザー企業”の経営者・担当者の視点から、効果的な情報化のための発想法を解説する。

 第4回から前回(第8回)にかけて、新聞業界や生命保険業界など構造不況業種の“ユーザー企業”におけるIT(情報技術)活用の在り方について述べてきました。次に「景気変動の影響を大きく受ける業種・業態の“ユーザー企業”に焦点を当てて考察します。

景気変動に間に合わず「在庫処分」する羽目に

 ほとんどすべての業種・業態は景気変動の影響を受けますが、扱っている財・サービスの性質によって程度の差があります。製薬や医療・介護関連、新聞、生命保険、損害保険などは景気変動による影響が比較的小さく、高級品など「選択的消費支出分野」を扱っている業種・業態は影響が大きいと言われています。

 具体的に、アパレル企業の例を紹介します。私がシステム技術者、すなわち“システム屋”として入社した会社で約30年前に担当したのが、この企業です。

 衣料品などを扱うアパレル企業は、景気変動によって大きく需要が変動し、業績が上下します。このことは消費者の立場で考えてみれば明らかです。給料が大幅に下がれば1年間衣料品は極力買い控えるように、景気が大幅に悪化すれば衣料品がほとんど売れないということになりかねません。

 婦人服ではなく紳士服がメインだったこの企業は、情報化に対する考え方は先進的でした。婦人服は景気だけではなく流行によって業績が大きく振れますが、紳士服は景気変動が最大の変数です。さらにスーツなど重衣料と呼ばれる品目を扱っていたその企業は、「作れ」と言ってから商品が店頭に並ぶまでの所要時間(リードタイム)が長く、同時に「作るのを止めろ」と言っても仕掛り中で止められない数量が多かったために、情報化の巧拙が死活問題でした。

 当時のアパレル企業は、1年以上前から翌年の商品企画を立て、デザインや試作を進めながら、服地など材料を確保し始めていました。商品はシーズン前には全部完成しています。どの店にどれだけ並べるかということだけが問題であり、シーズン終了間際になれば、バーゲンによって在庫処分するほかありませんでした。

週次の「在庫大移動」で需要変化に即応

 このアパレル企業は、同じくスーツであっても商品・景気・流行によって売れ行きが異なるだけでなく、販売する小売店によって売れていく順序が微妙に違う現象に何とか対応しようと考えました。百貨店などの小売店は、商品を買い取るわけではなく、販売を委託されていることが多かったので、アパレル企業としては売れるものを売れる店に運び込むことが重要です。

 このアパレル企業は3つの挑戦を実行しました。

 当時、紳士服売り場は週末ににぎわい、平日は閑散としていました。そこで、第1の挑戦として、週末の売り場での売上高を集計し、事務センターで入力してデータ化し、コンピュータを使って分析資料を作成するという作業を月曜日までに実行するようにしました。火曜日早朝からの会議でデータを分析しながら販売戦術を調整し、水曜日の朝から小売店にある在庫の大移動を実施するのです。

 次に実行した第2の挑戦は、大きな倉庫を構えて、倉庫の在庫と売り場の在庫を合わせて管理して、週次で大幅に入れ替える作戦です。物が大きく動くことから「物動表」と名付けた帳票は、今から見ても画期的でした。数千とある品目とブランドの組み合わせをグループに分類して、グループごとの大きな動きを鳥瞰(ちょうかん)することにしたのです。生産計画、仕掛品在庫、倉庫の商品在庫、売り場の商品在庫と、売り上げ実績を一覧して把握できるようにし、「今週は何をどう動かすか」を検討するための帳票を活用しました。