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伊香賀 正彦/デロイト トーマツ コンサルティング 代表取締役社長
八子 知礼/デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャー

情報資産は,通信事業者の価値創出にとって物理的な資産と同じぐらい重要になってきている。顧客データは収集の段階から,分析・活用の段階に移ってきた。分析・活用のためには顧客データを統合・一元管理すべきであり,CCIO(最高顧客情報責任者)の設置やガバナンスの在り方が重要となる。

(日経コミュニケーション編集部)

 顧客データは,何十年にもわたって通信事業者の資産の一部となってきた。しかし現時点では,顧客データ,ネットワーク・データ,オペレーショナル・データの収集が先行し,分析と活用が遅れていると言わざるを得ない。

 2001~2003年ころに電子商取引(EC)が興り,モバイル化が進み始めた当時,顧客データを活用して一人ひとりの顧客にアプローチするワン・トゥ・ワン・マーケティング手法が大流行した。しかしながら日本では,2005年に施行された個人情報保護法によって,顧客データを積極的に活用することに二の足を踏むケースが増えているのが実態である。

顧客属性データからライフログへ

 とはいえ,最近は顧客データへの注目度が再度高まっている。蓄積していたにもかかわらず活用されなかった多くのデータが役員の目に留まり,活用できると考えられ始めているためである。顧客データは,顧客の属性情報と,ライフログと呼ばれる個人の行動履歴情報に区分される。通信事業者の場合は,さらにコールログやWeb履歴なども把握できることが最大の特徴である。

 顧客の属性情報は,年齢,性別,住所,メール・アドレスなどであり,ライフログやコールログは,どこからどこまで移動したか,何をしているか,誰としゃべったか,どこのWebを閲覧しているか,などである。これまでは,ほとんど属性情報しか注目されてこなかったが,通信事業者に登録されている属性情報は本当の利用者と一致しないことも多く,活用が難しかった。

 一方,最近は場所や利用端末を超えて個人の行動履歴を把握できるようになってきたため,ライフログやコールログを含めて顧客データとして収集・分析・活用することに焦点が移ってきた。例えばライフログの活用については,総務省が活用ガイドラインを検討するなど期待が高まってきている。

他社との顧客獲得競争上も有利に

 長引く経済不況が一部の消費者の消費行動や支出パターン,ニーズを一変させるとみられている。英デイリー・テレグラフによると,2008年後半は可処分所得の減少を背景に,英O2のサービス・エリアを中心とした地域でSIMカードだけの契約が増えたという。通信事業者が適切なサービスや製品を投入し,価格設定を行うには,顧客が今,何を求めているのかを正確に知ることが極めて重要と言える。

 また,顧客が出費を抑えようと値引きを迫ることで通信事業者の利益率を圧迫する可能性もある。このとき,通信事業者が詳細な顧客データを持ち,分析・整理していれば,顧客が何を重視しているかを細かく把握できる。顧客の要望に対するアクションを事前に準備しておけるため,自社の顧客の引き留めと競合他社からの顧客獲得に役立つと考えられる。

 さらに日本ではMVNO(仮想移動体通信事業者)のガイドラインが整備され,異業種からの通信産業への参入も続いている。こうした新規参入者の中には,自社の顧客層をよく理解しているところもあるだろう。通信事業者もMVNO以上に自社の顧客像,ニーズ,行動パターンなどを把握しておかなければ,単なる卸業者の役割しかなくなりARPU(ユーザー1人当たりの月間平均収入)が大幅に落ち込むことになる。