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 今回のテーマは営業担当者の心がけです。まずは、山田さんの様子を見ていきましょう。

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 開発部から営業部に異動になった山田ひろしです。今日は僕の営業部配属1日目。開発部から異動した元エンジニアを指導するのは五十嵐さんでした。「山田さん、おはようございます。ようこそ営業部へ」と、五十嵐さんが言います。

 営業部の壁に張られた成績表を見ると、今月も五十嵐さんがトップのようです。隣には大時計が飾られていて、「祝 創立二〇周年記念」と書かれています。現在は午前8時30分ですが、五十嵐さん以外の営業担当者たちも、ほぼ全員出社済みです。

 「五十嵐さん、営業部の人はみんな朝早いですね。今日は何かあるのですか?」

 「いや、これが普通だよ」と五十嵐さんが答えます。「営業はみんな、朝早いんだ。なぜか分かるかい?」と急に聞かれました。「分かりません」と素直に答えたところ、「営業は、お昼の時間はできるだけお客様のために使わなくてはいけない。だから、事務仕事や雑務は、できるだけお客様の業務時間外にやるものなんだ。これから習慣付けのため、毎日8時に来て始業前に事務処理をやって、業務時間はできるだけお客様のところへ行ったり、お客様へ電話をかけたりする仕事に使うこと」と、心がけを教えてくれました。

【Tips1】営業は朝早く来て、業務時間外に事務処理をする

 なるほど、時間の使い方も大事なんだ、エンジニアの時代には意識しなかったな、と僕は思いました。朝早くに行くのは少し辛いけど、混んでいる電車に乗らなくてよいから、と前向きに考えることにした僕は、五十嵐さんに聞きました。「今日は何をするんですか?」

 「初日だから、まずは慣れてもらわなければならない仕事として、テレアポをやってもらおうと思ってる」

 「テレアポですか?あの、キツイとうわさの…」

 「そうだよ、あのテレアポだよ。でも、思うほどきつくはないから安心して。変なつぼを無理やり売りつけるわけじゃないから」

 「僕、電話は苦手なんですよ、相手の顔が見えないし、話の流れによっては、ひどいこと言われたりするんじゃないですか」

 「大丈夫。一応、社会人として常識のある人が電話に出るから」

 「そうですか。頑張ってみます」

 「今からやり方を教えるから、ちゃんと聞いているように。一番大切なのが、テレアポの目的を理解することだ。何が目的だと思う?」

 「商品やサービスをきちんと説明することですか?」

 「普通はそう思うよね。でも、実は違うんだ。テレアポ初心者がよく失敗する例として、商品の説明を長々として、お客様に嫌がられてしまうパターンだ。テレアポの上級者は商品の説明を簡潔にして、相手に嫌がられずに紹介することもできるけど、初心者にそれは少しハードルが高い」

 「では、何をするのですか?」

 「テレアポの目的は、僕らに興味を持ってもらい、相手に対して訪問の許可を取ることだ。商品の説明はしなくていい」

【Tips2】テレアポの目的は訪問許可の取り付けである

 「商品説明はしなくていいんですか?それでは商品が売れませんよ?」

 「もともと、システム開発は電話で売れるような簡単な商品ではないよ。化粧品や英語の教材のように目に見えて、誰もが知っている物なら売れるかもしれないが、システムのように目に見えない商品は対面してきちんと提案をしないと絶対に売れない。一度やってみせよう。でも、ちょっと今は時間帯が悪い、夕方まで待ってくれ」

 「なぜ夕方なんですか?」

 「それは後で話そう」と行って、五十嵐さんは午前中の営業に出かけて行きました。

 夕方、五十嵐さんが帰ってきました。時間は午後6時を回っています。

 「それでは、始めよう」五十嵐さんはテレアポの名簿を取り出して、電話をかけ始めました。

 「この名簿には責任者の名前が乗っていない。だから、最初はその会社のWebサイトを見ながら、システムの責任者のいる部署に電話を掛けるんだ。いいね?」

 「分かりました」

 「もしもし、私、XX情報システムの五十嵐と申しますが、お世話になっております。システム部の部長様はいらっしゃいますでしょうか?」「…」

 「ご不在ですか。それではまた明日、改めてお電話いたしますが、どなたにかけ直せばよいでしょうか?」「…」

 「部長の織田様ですね、ありがとうございます。失礼致します」

 「五十嵐さん、不在のようでしたね。残念です」

 「何言ってるんだ、山田さん、大成功じゃないか」

 「え?どういうことですか」

 「システム部長の名前が分かったじゃないか、これで昼間かけても、受付に取り次いでもらえるだろう」

 「?」

 「通常、担当者の名前が分からない会社に電話を掛けるときは、どうしても“責任者様あて”にしか電話ができない。それだと受付の人に取り次いでもらえないことが多い。これが続くと、だんだんテレアポが嫌になってくるというわけだ」

 「確かにそうですね」。

 「ところが、業務時間を少し外れた夕方以降に電話をかけるとどうなるか。受付の人はあまり残業しないから、社内の誰かが取ることになる。ただ、その誰かは受付の人ほどには電話応対に慣れていない」

 「なるほど」

 「部長あてにかかってきた電話でも、部長が社内にいればそのまま電話をつないでくれる可能性が高いし、部長がいなくても、名前を教えてくれる可能性が高い。名前さえ聞けば、あとはいつ電話をかけても部長まではつながると言うことだ」。

 「なるほど」。僕は感心してしまいました。

【Tips3】テレアポは業務時間外、夕方の6~7時くらいに行う

 「ちょうど今の時間は、受付が帰っているけれども、社内に誰かは残っている時間だ。チャンスだぞ」。

 「ありがとうございます!早速やってみます」

 「まあ、焦らずに。もう一つ説明しなければならないことがある」。

 「何ですか?」。

 「目的の相手が出た場合に、どういう話をする?」。

 「そういえば、何も教えてもらってないですね。ぜひ、教えてください!」。

安達 裕哉(あだち ゆうや)
トーマツイノベーション シニアマネージャ
筑波大学大学院環境科学研究科修了後、大手コンサルティング会社を経てトーマツ イノベーション株式会社に入社。現在、主としてIT業界を対象にプロジェクトマネジメント、人事・教育制度構築などのコンサルティングに従事する。そのほかにもCOBIT、ITサービスマネジメント、情報セキュリティにおいても専門領域を持ち、コンサルティングをはじめとして、企業内研修・セミナー活動を積極的に行う。