NTTドコモが海外に進出する際に採用しているのは,新興国と先進国で戦略を変えるというものだ。
まず,新興国では通信事業者のインフラ事業に出資していく戦略を採る。現在は中国以外のアジア諸国に絞って出資を拡大している段階。代表的な案件が2009年3月に出資したインドのタタ・テレサービシズ(ブランド名はタタ・ドコモ)だ(表1,写真1)。このほか,フィリピンや台湾,シンガポールなどの通信事業者に出資している。
出資先 | タタ・テレサービシズ(タタ・ドコモ) | ネット・モバイル |
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国・地域 | インド | ドイツ |
業種 | 移動通信事業者 | コンテンツ・プラットフォーム事業者 |
売上高(注1) | 非開示 | 77億3000万円 |
出資額(注1) | 2640億円 | 50億7000万円 |
出資比率(注2) | 26% | 約80% |
株式取得時期 | 2009年3月 | 2009年12月 |
注2)出資比率は株式取得時点のもの

同社がこうした戦略を採るのは,「新興国ではまだ通信事業者の成長余地が大きいと期待できる」(国際事業部長の国枝俊成執行役員)から。欧州事業者が南米やアフリカに積極投資しているのと同様,NTTドコモもアジアの成長を取り込み,加入者数規模でも国際的なプレゼンスを確保したい考えだ。
出資先の事業者に対しては,NTTドコモが日本で開発したサービスを押し付けるのではなく,現地の状況に応じて柔軟に提供形態を変える。例えばタタ・ドコモの場合,iモードは提供せず,人気が高いクリケットの試合結果や占いなどをiチャネルに似たプッシュ配信で提供している。端末自体も,日本仕様のものではなく現地のGSM方式の携帯電話機にプッシュ情報表示用のソフトを追加したものを使う。
現地ニーズに合った日本のコンテンツを持ち込む
一方,加入者増が見込めない先進国では,ARPUの拡大を目指してサービスの付加価値を追求する。そのために2009年12月,独ネット・モバイルを買収した。同社は,欧州の携帯事業者44社に対してアプリケーションやポータル・サイト,課金などを事業者ごとにカスタマイズして提供している(図1)。
今後は,「この基盤を通じて,アニメやゲームなど現地のニーズに合った日本のコンテンツを持ち込む」(国枝執行役員)考えである。NTTドコモは,以前からオランダ現地法人のドコモ・ネザーランドで同様のサービスを提供していたが,「今後はネット・モバイルとの基盤統合を考えていく」(同)としている。
新興国と先進国の両面作戦を展開することでNTTドコモは,現在1000億円前後の国際事業収益を中長期的に総収益の1割に当たる4000億~5000億円規模に引き上げる計画。その大半を,海外投資先の配当から稼ぎ出す目算だ。