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 碓井誠委員長から、業種を超えたサービス・イノベーションの共通の方法論が存在するとの予言がなされた。これは、碓井委員長がこれまで行ってきた小売りや医療のサービスの現地調査をベースになされたものである。私も、碓井委員長と同様に、これまで多様な業種の事例分析を数多く行ってきたが、この予言を強く支持する。

サービス・イノベーションにおける共通の機能とは?

 例えば、サービスが授受される「顧客接点」の現場で行われていることは、産業分野を超えて共通していると考えている。一般に分かりやすい小売りサービスを見たとき、顧客接点で行われているのは、「販売」である。

 旅館やホテルといった宿泊サービスでは、そこで「接客」が行われている。以前、旅館の加賀屋(石川県七尾市)を紹介したとき、客室係りによる「おもてなし」も、この接客に相当する。医療サービスの場合、医師は患者を「診察」する。教師を生徒に「授業」する。それぞれの業種によって、行われていることは一見異なり、そして呼び方もそれぞれ異なる。

 しかし、サービスの提供者と受容者の間の関係を、サービス現場に必要な機能から見たとき、そこで行われている行為は同じであることに気づく。つまり、それが販売員であっても、客室係りであっても、さらに医師、教師であっても、サービスを提供する者は、サービスの受容者である顧客が求めていることを理解しようとしている。顧客接点とは、無駄なく、最適な内容のサービスをきちんと提供するために、顧客を理解するための現場といえる。

同じ業種でも存在する、異なる価値とは?

 このように、業種を超えて共通性が見えてくると、同じ業種であるにもかかわらず、逆に違いも見えてくる。小売りサービスを見たとき、コンビニエンスストア、食品スーパー、自動販売機、百貨店、ネットショップなどがある。販売方法や商品構成は異なる。同じ商品であっても、それぞれのサービスで販売価格も一般に異なる。

 コンビニや自販機は、基本的に割引販売しない(最近は、一部の製品などで割り引くケースは増えている)。一方、食品スーパーは定価販売しない。しかし、時として販売価格に大きな違いがあるにもかかわらず、それぞれのサービスは、同じ商圏内でうまくすみ分け、事業を展開し続けている。

 これは、消費者が、それぞれのサービスから、必要な商品を単に購入していないことを意味している。消費者は、状況に応じて、商品の購入先を変えているのである。同じ商品を購入するとしても、会社から帰宅するときはコンビニで必要な商品を必要なだけ効率的に購入する。一方、食品スーパーでは、週末にまとまった量を安く購入する。自販機では、欲しいと思ったときに購入する。このように、価格だけで人は商品を購入するのではなく、無意識にサービスを使い分けている。

 コーヒーチェーンを見たときも、同じような違いに気づく。例えば、スターバックスコーヒー、タリーズ、ドトールコーヒー、ルノアールについて、喫煙の可否、手作業か機械作業というコーヒーの淹れ方の違い、表通りか路地裏という立地の違い、店舗デザインの違いなどから見たとき、それぞれのチェーンの異なる戦略が見えてくる。つまり、あるチェーンは顧客の回転率を重要視し、また別チェーンは来店客の再来店率を重要視し、その違いがサービスの内容や提供方法に現れている。

 この小売りサービスにしても、コーヒーチェーンにしても、提供されている機能は一見同じである。しかし、それを顧客の視点から見たとき、それぞれが提供している価値が異なり、顧客はそれを上手に使い分けていると理解することができる。

業種を超えた共通性と違い

 以上のように、碓井委員長が予言したような共通性が業種を超えて存在することは間違いない。しかし、一方で、一見同じ業種のように見えても、それを顧客の視点から見たとき、異なる価値が提供され、それを顧客が無意識に使い分けていることも理解していかなければならない。つまり、サービスには、共通するところと、異なるところの両方が存在しているのである。

内藤 耕(ないとう こう)氏
産業技術総合研究所 サービス工学研究センター次長
産業技術総合研究所 サービス工学研究センター次長 内藤 耕氏  1966年3月生まれ。金属鉱業事業団(現在の独立行政法人石油天然ガス金属鉱物資源機構)、国際協力事業団、世界銀行グループ(米国ワシントンDC)を経て、2001年7月から独立行政法人産業技術総合研究所に勤務。2008年4月から産業技術総合研究所サービス工学研究センター次長。平成20年度サービス産業生産性協議会科学的工学的アプローチ委員会委員長、青山学院大学大学院ビジネス法務研究科非常勤講師、東京大学人工物工学研究センター客員研究員を兼務。工学博士。主な著書に『第2種基礎研究:実用化につながる研究開発の新しい考え方』(編著、日経BP社)、『「産業科学技術」の哲学』(共著、東京大学出版会)、『サービス工学入門』(編著、東京大学出版会)などがある。