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 日本民間放送連盟の会長である広瀬道貞氏(テレビ朝日顧問)は、2010年1月21日の定例会見において、放送受信機に内蔵されたソフトウエアによるデジタル放送のスクランブル解除やコピー制御の実現に意欲を示した。現在、地上デジタル放送やBSデジタル放送、東経110度CS放送では、スクランブル解除やコピー制御を行う仕組みとしてB-CASカード方式が採用されている。これに対して広瀬氏は、「一刻も早く受信機内蔵のソフトウエアでコピー制御やスクランブル解除を行う方式に切り替えていきたい」と述べた。

 広瀬氏の発言の背景には、現行のカード方式において地上放送事業者が支払う金額がどんどん増して大きな負担になっていることがある。B-CASカードには、地上波専用受信機用カード(青カード)や3波共用受信機用カード(赤カード)など複数の種類がある。青カードを基盤にしたインフラ利用費などの関連コストは、地上放送事業者が大部分を負担している。具体的な負担額は、「地上放送事業者は赤カードについては1枚当たり72円、青カードについては265円を、負担している。これは値引きをしてもらったうえでの金額」(広瀬氏)という。地上放送事業者の青カードの負担額は赤カードの4倍程度であり、青カードの発行枚数の推移は地上放送事業者の業績に少なからず影響を及ぼす。

民放キー局の今年度負担は想定金額を1億円超過

 2009年度の民放キー局の業績にも、青カードの発行枚数の増加は影響を与えそうだ。地上放送の完全デジタル化の期限(2011年7月24日)が迫っており、地上デジタル放送受信機の出荷台数は増えている。2009年12月には年末商戦の時期ということもあり、月間出荷台数が初めて300万台を超えた。

 さらに総務省テレビ受信者支援センター(デジサポ)が2009年度中に、経済的に困窮度の高い世帯(NHK受信料全額免除世帯のうち災害被災者以外の世帯)に最大60万台の地上デジタル放送の簡易チューナーを無償給付するという “特需”も発生した。これらの影響により、2009年度における地上放送事業者のB-CAS負担額は当初の予想を超える金額になった。例えば民放キー局の場合、「1社当たり2億6000万円程度の予算を組んだが、実際は3億6000万円程度になるのではないか」(広瀬氏)という。

 これに加えて、将来的に携帯電話事業者が12セグメント放送(現在は固定テレビ向けに提供)対応携帯電話機(フルセグ携帯)を発売することになれば、地上放送事業者の負担はさらに増える。放送事業者はワンセグにスクランブルをかけておらず、現行のワンセグ端末にはB-CASカードが不要のため、ワンセグ端末の普及は地上放送事業者の負担額を増やす要因になっていない。

フルセグ携帯の普及によるコスト増に懸念

 しかし仮に携帯電話事業者がワンセグに比べてより高画質な12セグメント放送を視聴できる機能を新端末の売り物にした場合、それぞれの端末にB-CASカードを同梱する必要がある。地上放送事業者の負担額はさらに増えることになる。広瀬氏は、「携帯電話機の買い替えは1年から2年ごとに1回であり、これを考慮すると民放キー局の負担額が10億円を超えるということにもなりかねない」と懸念を示す。

 端末側の視点で見ると、12セグメント放送を視聴できる環境を整えるためのハードルはかなり低くなった。ビーエス・コンディショナルアクセスシステムズ(B-CAS社)は2009年11月に、「Plug-in SIM」形状の地上デジタル放送専用カード(ミニカード)の端末メーカーに対する支給を開始した。携帯電話機にSIMカード用と同じ大きさのスロットをもう一つ付ければ、端末側としては12セグメント放送を視聴できる環境が整う。

 B-CAS関連コストの負担増の要因がある中で、地上放送事業者はB-CASカードのソフトウエア化に活路を見出そうとしている。受信機に内蔵されたソフトウエアによって放送波のスクランブルを解除したり放送番組のコピー制御を行ったりといったB-CASの機能を実現できれば、カード発行が不要になる。この仕組みの実現によって地上放送事業者は、ソフトウエアがデジタル放送のスクランブルを解除するために使う鍵データの管理などを手がける組織である「ライセンス・発行管理機関」との契約条件にもよっては、より安いコストでB-CASインフラを利用する道が開ける。放送事業者からはB-CASのソフトウエア化について、「フルセグ携帯の発売前に形をつくりたい」(広瀬氏)という声が出ている。