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有限責任監査法人トーマツ エンタープライズリスクサービス部
シニアマネジャー
滝口 太郎

 前回から始まったこの連載は、IFRSが内部統制に与える影響と対応策を説明していくのが狙いである。基準書の単位で解説するのではなく、主要な業務プロセスに着目して話を進めていく予定だ。

 前回は総論として、IFRSが経営に与える主要な三つの影響について説明した。今回から、本論に入っていく。今回と次回で、まず販売プロセスを取り上げる。予定している内容を表1に示す。関連しているIFRSの基準書は、IAS第18号(収益)とIAS第11号(工事契約)となる。

表1●販売プロセスに関するテーマ
連載回 主なテーマ
第2回 収益の認識規準
第3回 複合契約(本体売上とサービス売上)

 ここでは販売プロセスを「受注」「売上の計上」「債権の回収」という三つのサブプロセスに分けている。

 今回は、売上計上時点を決定する認識規準を取り上げる。販売プロセスの中で、売上の計上サブプロセスに関連するものだ。特に業務プロセスと情報システムへの影響が大きいとみられる一般的な物品販売における実務対応の勘所を紹介したい。現状の業務プロセスや情報システムを最大限に活用し、できるだけ少ない労力での対応を図るためのポイントを見ていくことにしたい。

物品販売における収益認識の変更点

 日本基準とIFRSでは、どのようなタイミングで収益を認識するのだろうか。それをまとめたのが表2である。

表2●IFRSと日本基準との主な相違点と業務プロセスなどに与える影響
IFRS
(IAS第18号14項)
日本基準
(実現主義)
主な相違点 業務プロセスなどに与える影響
業務プロセス シス
テム
(a)買手に物品の所有に伴う重要なリスクや経済価値を移転した (1)「財貨の移転又は役務の提供の完了」 IFRSでは、日本基準(実現主義)における要件をより厳格に解釈することを求めるため、相違が生じる可能性がある
(b)販売された物品に対して、通常であれば所有しているのと同程度の継続的な管理上の関与と有効な支配のいずれかを保持していない
(c)収益の金額を、信頼性をもって測定できる (2)現金または現金等価物その他の資産の取得による「対価の成立」 重要な相違はないと考えられる
(d)当該取引に関連する経済的便益が企業に流入する可能性がかなり高い
(e)当該取引に関連して発生したか、発生する原価を信頼性をもって測定できる 「費用収益対応の原則」に相当する

 表2で分かるように、販売プロセスそのもの、ひいては販売プロセスにかかわる情報システムに対して影響を与えるのは、IFRSが収益認識について規定している「買い手に物品の所有に伴う重要なリスクや経済価値を移転した」という要件である(表2(a))。

 これは従来の日本基準とどう違うのだろうか。をご覧いただきたい。この図は販売プロセスにおいて、売上が認識される主な時点を示したものだ。

図●収益認識の違い
図●収益認識の違い

 現状でも契約内容などによって様々なケースが想定されるだろう。ただ、物品販売を主業務としている企業の多くは、「出荷時点」で売上を認識していると思われる(図の(A))。

 ところがIFRSでは、出荷時点で(a)の要件が無条件に満たされるとは限らないとしている。この点については、日本公認会計士協会が2009年7月9日に公表した 「我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)-IAS第18号「収益」に照らした考察-」(会計制度委員会研究報告13号(2009年12月8日改正)、以下「研究報告」)で説明している。

 研究報告では、IFRSを導入した場合、「出荷基準」による売上計上は所有権の移転が出荷時点とされ、かつ輸送中を含む出荷時点以降の在庫保有に伴うリスクを買い手が負担する旨が取引当事者間で明らかに合意されていない限り、無条件には認められないとしている。物品販売では、ここまでの合意はなされていないケースが多い。

 そうなると輸送途上、すなわち図で(A)出荷時点から(B)引き渡し時点までに何らかのトラブルが発生すると、売り手は物品が顧客に届かないリスクを負担することになる。その場合は「買い手に物品の所有に伴う重要なリスクや経済価値を移転した」ことにならない。

 そこで研究報告では、認識時点を出荷時点から「引き渡し時点」へと変更することになるとしている。リスクや経済価値が顧客に移った時点で売上を認識するので、(a)の要件は満たせているわけだ。

 ちなみに図では、商品が納品される(B)の引き渡し時点と、納品された商品の(C)検収時点とを明示的に分けている。研究報告では、(a)の要件が検収時点まで満たされないケース(すなわち、顧客による検収が販売プロセスにおいて重要な場合)もあるとしているからである。今回は説明を簡潔にするために、認識時点として「出荷時」と「引き渡し時」だけを考慮する。 

 引き渡し時点を厳密に把握する必要があるからと言って、必ずしもすべての販売プロセスを変更しなければならないわけではない。はたして「すべての契約内容を精査して、IFRSが求める収益認識の要件と照合する必要がある」のだろうか。私見ではすべての契約について厳密に精査が求められる場面は意外と少ないように思われる。

 IFRSでは収益の認識に関して、どの会計方針を採用したかを開示することになる。このため、契約内容などを総点検する必要は出てくるだろう。その場合でも、取引を販売対象品の性質などに着目して類型化した上で、取引にかかわる契約書のひな型とその例外を検証し、採用した会計方針に重大な不備がないことが確認できればよいとみられる。