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池末 成明/有限責任監査法人トーマツ TMTグループ シニアマネジャー
鈴木 浩之/ICTラボラトリー 代表取締役

欧州の通信事業者が世界の携帯電話事業で一人勝ちしている。その原因の一つとして考えられるのが,通信事業者と規制機関との関係である。今回は,日本が世界に貢献するためには,どういった通信規制環境が望ましいのかについて検討する。

(日経コミュニケーション編集部)

 欧米の主要通信事業者を売上高順に見てみると,米AT&T,米ベライゾン,独ドイツテレコム,スペインのテレフォニカ,仏フランステレコム,英ボーダフォンと並ぶ(表1)。この中では欧州の通信事業者の成長が著しい。

表1●欧米主要通信事業者の比較
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表1●欧米主要通信事業者の比較

AT&Tやベライゾンは米国内が中心

 まず,売上高トップのAT&Tは携帯電話事業の売上比率は約3分の1。かつてのAT&Tは積極的に世界展開を図っていたが,地域通信事業者の米SBCコミュニケーションズに買収され,新生AT&Tとなってからは相対的にその規模が縮小した。

 第2位のベライゾンの携帯事業の売上比率は5割を超え,米国国内でのシェアはトップになっている。2008年に米オールテルを買収し,1300万加入を獲得したためである。なお固定通信事業は,収益効率が悪い地方の事業を売却したため2008年末時点ではマイナス成長だ。また,海外依存度も低い。

世界市場で成功を収める欧州事業者

 これらに対して,欧州事業者の携帯事業における国外での動きは活発だ。ドイツテレコムは,オーストリア,スロバキア,チェコ,クロアチアなどで通信事業者を買収し,中欧・東欧での携帯事業への参入を果たしている。2008年にはギリシャのOTEにも出資。東地中海地域でのプレゼンスも獲得した。また米国でも,携帯事業者の米ボイスストリーム・ワイヤレスを買収し,T-モバイルUSAに社名変更。同社は,世界初のAndroid搭載携帯端末を発売したことでも知られる。

 一方,テレフォニカは2004年の米ベルサウスからの南米事業買収をきっかけに売り上げが急伸した。2005年には,チェコテレコムと英BTから分離した携帯事業者のO2を買収。国内では,光ファイバのアクセス回線の貸し出し義務の免除などの優遇を受けている。

 フランステレコムも,傘下の仏オレンジがスペインの携帯事業者であるアメナを買収。新しいEU加盟国であるルーマニアやポーランドなどにも携帯事業で進出し,2007年にはポーランドの携帯市場でシェア・トップとなった。

 携帯を主軸とするボーダフォンは,携帯事業の世界進出で最も成功した通信事業者だ。ボーダフォンの国外依存率は欧州事業者で最大の87%。携帯電話加入者は,欧米事業者トップの約3億300万人である。欧州域内での進出だけでなく,米国ではベライゾン・ワイヤレスに45%出資している。また,南アフリカのボーダコムを通じてアフリカに,印ハチソン・エッサールを通じてインドにも進出している。

 ところが同じ欧州事業者でも,BTは少し様子が異なる。BTはO2をテレフォニカへ売却し,携帯電話での世界進出の足掛かりを自ら戦略的に捨てた。他の欧州事業者が携帯事業で海外へと進出する中,BTはその収益モデルを固定通信と上位レイヤー・サービスから得るようにシフトした。この結果,BTの英国を含む世界の大企業向けのグローバル・サービス部門の収益は,全収益の41%を得るに至った。また,米MCI(2006年に米ベライゾン・コミュニケーションズが買収)が撤退してからは,VPN(仮想閉域網)市場で欧州トップになっているという。

事業者の世界戦略には三つの特徴が

 各事業者の世界戦略の動向を総括すると,三つの特徴に気付く。

 第1に,欧州事業者は携帯事業依存度が5割を超え,欧州域内だけでなく欧州域外で成果を上げている。第2に,米国事業者は世界戦略で顕著な動きが少なく日本同様に“ガラパゴス化”している。これは米国市場が十分に大きいことから,世界進出に対するインセンティブが働かないためだ。第3は,前述のように欧州の主要事業者ではBTが欧米市場において上位サービスで目覚ましい進展を見せていることだ。これらの特徴が生まれた原因は,どこにあるのだろうか。