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 新興国が台頭する世界に、先進国の製造業はどう対応すべきか。その処方せんを提示して米国で話題を集めた書籍の日本語版が登場した。日本語版の著者の1人である岸本義之氏に出版の狙いなどを聞いた。(聞き手は、島津 忠承)

日本語版の出版に当たって大幅に加筆した狙いは。

 現状、日本の製造業の多くが苦しんでいる。利益率の長期低落傾向が続き、欧米企業に水をあけられている。その原因と対策を日本の製造業向けに提示してこそ日本語版を出版する意味があると考え、大幅に加筆した。具体的には、日本の製造業が勝つための5つの戦略などを提示した。経営者など意思決定に携わる方にぜひ読んでもらいたい。

日本の製造業の課題は。

 利益率の長期低落に対処しなければならない。日本の製造業は長年、当面の利益率を無視して売上高やシェアの拡大を志向してきた。この方針は、先進国に大きな市場が存在した時期には有効だった。シェアを確保すれば量産効果が働き、相対的に低コストで製品を生産できるようになって競争力が高まるからだ。

 だが、近年は中国などの新興国の存在感が高まっており、競争環境も大きく変わった。これまでグローバルで活躍してきた際の成功体験が、今後も通用するとは限らない。

 例えば、新興国企業は低廉な人件費によって製造コストを抑えられる。シェアを確保しても、必ずしもコスト競争力に結び付かなくなった。

 また、日本製品の品質の高さは先進国では強い競争力であったが、新興国では「圧倒的な低コストでそれなりの品質」の製品が市場の中核を占める。日本の品質は過剰であり、競争力になりにくい。

 このような状況にもかかわらず、多くの日本の製造業はシェアや品質を重視する方針を変えずに生産し続けている。結果、新興国企業の低コスト製品との過当競争に巻き込まれて、売れても儲からない“豊作貧乏”に陥っている。これが利益率の長期低落傾向の背景と見ている。

豊作貧乏から脱却するにはどうすべきか。

 欧米企業のように、不採算事業から撤退するなどの戦略的な判断が必要だ。カイゼンで現場の無駄を取り除いてきたように、製品レベルや事業レベルの無駄を取り除くわけだ。

 しかし、日本企業はなかなか撤退できない。原因の1つは、いくつかの事業を束ねた「事業ドメイン」という発想を取り入れている企業が多いことだ。何かの事業から撤退しようとすると「別の事業に悪影響がある」と反対の声が上がりやすい。本当にそうなのかデータで検証すべきなのだが、固定費や変動費は事業別E製品別にとらえにくくなっている。

 結果的に戦略的な判断を先送りし、代わりに生産現場が歯を食いしばってカイゼンして耐えていることが多い。だが、それだけでは新興国市場を勝ち抜くのは困難だ。

グローバル製造業の未来

グローバル製造業の未来
カジ・グリジニック/コンラッド・ウィンクラー/ジェフリー・ロスフェダー著
ブーズ・アンド・カンパニー訳
日本経済新聞出版社発行
2100円(税込)


岸本 義之(きしもと よしゆき)氏
ブーズ・アンド・カンパニー日本法人のディレクター・オブ・ストラテジー。20年近くにわたり、主に金融機関の戦略策定や組織改革などのプロジェクトに携わってきた。