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有限責任監査法人トーマツ
エンタープライズリスクサービス部 マネジャー
田中 仁

 今回は前回に続いて、IFRS(国際会計基準)が販売プロセスおよび内部統制にどのような影響を与えるかを説明する。今回取り上げるのは「複合契約」である。

 複合契約とは、いくつかのサービスを組み合わせてモノを売る契約を指す。ひと昔前は単一の製品あるいはサービスを販売する「単品商売」が一般的だった。しかし現在では消費者の嗜好が多様化しており、いくつかのサービスを組み合わせてニーズに応えていかないと契約を取りにくい時代になっている。これが複合契約(本体売上と役務提供売上の組み合わせ)であり、現在ではよく見られるようになっている。

 IFRSではこの複合契約における収益認識をどう考えるか、日本基準とどのような点が異なるかが今回のテーマである。

物品販売とサービス提供を分けて認識する

 身近な例を一つ挙げよう。業務用のPCサーバーを購入する際に、機器本体を提供するのと同時に、基本ソフトやミドルウエアのインストールやサーバーの設置工事といったサービスの提供を受ける契約を結ぶとする。利用者は、すぐに使えるPCサーバー環境を整備できるというメリットがある。

 これは複合契約である。パソコン機器の本体、基本ソフトやミドルウエアのライセンスは物品販売形態、インストールサービスや設置工事は役務提供形態となる。

 物品販売形態の収益認識に関して、出荷、納品、検収といった物品の移動に合わせた規準を適用する。一方、役務提供形態の収益認識については、サービス提供の進捗など役務提供の実態に応じた規準を適用する。それぞれのサービスの形態に合わせて収益認識を行うというのは、会計処理として優れている。サービス提供者の活動をきめ細かく財務諸表に反映できるからである。

 日本では現在、複合契約にかかわる一部の商取引を除き、会計処理の指針が存在しない。このため、一つの契約を複数の取引として分割し、それぞれのサービスの形態に合わせて収益認識を行うという考え方は必ずしも定着しているとは言えない。一つの契約に複数のサービスを組み込むケースが増えている現在では、多くの業種や業態で複合契約における収益認識が新たな課題として浮上する可能性が高いと思われる。

IFRSと日本の会計基準の相違点

 IFRSと日本の会計基準の相違点を図1に示す。

図1●IFRSと日本の会計基準との主な相違点と業務に与える影響
IFRS
(IAS第18号13項)
日本基準 主な相違点 業務に与える影響
業務
プロセス
内部統制
収益の認識規準は、通常それぞれの取引に個別に適用される。しかし状況によっては、取引の実質を反映させるために、単一取引の中の個別に識別可能な構成部分ごとに認識規準を適用することが必要となる ソフトウエア取引に関する「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第17号)を除き、複合契約に関する指針は提供していない IFRSでは、ソフトウエア取引以外の取引についても同様に取引の実質を反映させるため、単一取引の中の個別に識別可能な要素ごとに認識規準を適用することが必要となる

 IFRSでは必ずしも1契約=1取引単位ではない。個別に識別可能な構成要素ごとに収益認識規準を適用するよう求めている。具体的には「工事契約」(IAS第11号第8項)で、単一の契約が多数の資産を対象としている場合に取引を分割しなければならないケースを以下のように示している(図2)。

(a) 個々の資産に対して個別の見積書が提示されている。
(b) 個々の資産について個別に取り決められており、施工者及び発注者が個々の資産に関する契約の関連部分について受諾することや拒絶することができる。かつ、
(c) 個々の資産の原価と収益が区分できる。

図2●契約を多数の取引単位に分割することになる典型的な契約のイメージ
図2●契約を多数の取引単位に分割することになる典型的な契約のイメージ

 これが、取引の分割の要否を判断する際の一つの指針となる。

 「工事契約」(IAS第11号第8項)と同様の趣旨の規定は日本基準でも存在する。「工事契約に関する会計基準」第7項で「工事契約に係る認識の単位は、工事契約において当事者間で合意された実質的な取引の単位に基づく」と規定している。

 ただし、この会計基準は一定の請負契約に適用されるものだ。契約一般に対して、個別に識別可能な構成要素ごとに収益認識規準を適用する会計基準は日本基準にない点に注意してほしい。