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 決しておもねず、決して妥協せず--。誰にもおもねることのない一人のエンジニア。決して人嫌いではないが、テクノロジがもたらす価値を社会に還元するために、常に最善を尽くす。そんなエンジニアとしての生き方を貫く主人公「渡瀬浩市」と、その秘書となった「高杉伊都子」。そこに中学でパソコン部に所属する「金田京太郎」が加わったことで、渡瀬の経歴が明らかになっていく。

 渡瀬の隣に腰掛けた京太郎は、一向に緊張する様子はない。

「マンガの解説書がありがたいなんて、うちのママに聞かせたいな。とにかく受験にはマンガはダメ、パソコンも1日1時間以内、テスト週間中は1日30分に短縮されちゃうんだよ。まったく、ただのテレビゲームだと思ってるんだから!おじさんのお母さんは理解ある人なんだね」

 物怖じしない京太郎に私の方が保護者になったような気持ちでヒヤヒヤしていた。渡瀬は終止、穏やかな笑みを浮かべながら、京太郎の話に耳を傾けていた。

「私の祖父がエンジニアでした。静岡県で大きな工作機械製造会社を経営していて、地元の名士でした。本田宗一郎氏と同年代で、浜松時代の本田宗一郎氏から『ホンダに来てくれないか』と直接、誘われたという話を子どもの頃に聞きました。しかし、祖父も優秀でプライドが高いエンジニアでしたから、本田宗一郎氏の申し出をお断りしたのです。私はそんな祖父を子どもの頃から尊敬していました。エンジニア魂は祖父譲りなのです」

 渡瀬の祖父の話を聞いたのは、この時が初めてだった。

「おじさんのお祖父さんってすごいんだね。ホンダの本田宗一郎さんのヘッドハントを断るなんて!」

 ませた口調の京太郎に私は思わず苦笑した。

「データベースって、オラベルシステムズが世界シェアトップなんでしょう」

 京太郎は『マンガで解説データベース』の表紙を見ながら言った。

「金田君はよく知っているね」

 渡瀬は隣に座っている京太郎の顔をまじまじと見た。

「京太郎君、渡瀬所長はね。日本オラベルシステムズでオラベルシリーズをゼロから開発した中心的なエンジニアの先生なのよ。今は白山の研究所でデータベースのエンジンを研究されているの」

 次に京太郎が何を言い出すか分からないので、私は予防線を張り渡瀬の紹介をした。

「金田君はこの本が気に入ったらしいね。データベースに興味があるようだから、私が大きな影響を受け、今、研究中のマルチバリューモデルを扱えるデータベース・ミドルウエアの起源になったトーマス・ゴードンの『THOMAS OS』についてお話しましょう」

「トーマス・ゴードン?機関車トーマスみたいな名前だね。僕、幼稚園の頃、よく見てたよ」

 このあたりの受け答えはやはり子どもだ。

「あの、メモさせていただいてよろしいですか?」

 私は急いで手帳とボールペンをバッグの中から取り出した。

「面白そうだから、僕もメモしよう!」

 京太郎も学生鞄の中から大学ノートとボールペンを取り出した。いつの間にか鳩が3羽足元に寄ってきた。

 「キャー!桜の木と同じ高さになったよ!」ブランコをこいでいる2人の女の子のはしゃぎ声が高く低く公園に響いていた。