PR

 2010年3月11日、総務省の補助金と放送事業者の負担金により、デジタル放送推進協会(Dpa)が実施するセーフテイーネットである「地デジ難視聴対策衛星放送」が本放送を開始した。本稿は、本放送がどのように運用されているかについて若干の考察を試みるものである。

 衛星セーフテイーネットの対象は、2011年7月24日の完全地デジ移行に伴い、地形的要因や混信により地デジ放送を視聴することが困難な地区の世帯が対象である。中継局や共同受信施設など受信環境の整備が完了するまでの間、暫定的に衛星放送で地デジ番組を視聴できるようにする。運用期間は暫定として2015年3月までとしている。暫定としているのは、対象世帯の地デジ化が予定より早期に達成されれば、このサービス自体をそれにあわせて終わらせる可能性もあるからだ。

 本放送は2010年3月11日に催された「ラストスパート500日」のイベント内で、関係者による「押下式(灯入式)」も行われた。放送が本格運用されたことを周知させるためである。

 衛星セーフテイーネットの対象を具体的に言えば、アナログ放送の停波日である2011年7月24日以降に、平均的な感度のUHFアンテナを標準的水準で設置しても、テレビ放送を受信できないと想定される世帯である。総務省ホームページでは、ホワイトリストという名称で全国各地の場所を、順次、特定して記載し始めている。ただし、キー局の番組が本来の放送エリアを越えて各地に配信されることから、ローカル局や著作権者の違和感は少なからずあるようだ。

 筆者が本放送の運用で疑問を感じることは、BSデジタル放送のEPG画面を普通に使っていると、唐突にキー局の地上波の番組が表示されるようになった点である。この「対策BS」の論理番号は290番台を利用している。いずれにしても、全国を対象としたEPGの画面に関東地区のキー局EPGが表記されるのだから、北海道や九州など全国各地で、フジテレビやテレビ東京といった局名とその番組内容を一般視聴者が見ることになる。この結果、庶民の感覚から考えると、BSアンテナを設置すれば「キー局が見える」と勘違いしてしまう視聴者が少なからずいるに相違ない、と考えてしまう。

 もちろん、B-CASによるスクランブル化がほどこされているので、一般視聴者は見ることはできない。しかし、EPGから選局そのものは可能である。そして各局のスクランブル画面に表示された「見る」という項目をリモコンで決定すると、論理番号「890」の当該チャンネルのデータ放送画面に飛ぶ仕組みである。EPG自体を「対策BS」の対象世帯に配布した別なCASカードなどを用いないと見せない、といった工夫が必要だったと考える。管理の工夫を行えば、こういった特殊ジャンルの緊急避難的放送は、NITのグルーピングを変えて別タイプのCASカードで運用できるだろう。

「対策BS」を受信するのが大変な場合もある

写真1●筆者所有の2003年製造のテレビのBS中継器の電波強度測定画面。当該中継器の項目がなく、EPGも表示されない。
写真1●筆者所有の2003年製造のテレビのBS中継器の電波強度測定画面。当該中継器の項目がなく、EPGも表示されない。
[画像のクリックで拡大表示]
写真2●東京スカイツリー。東京タワーを超える338メートルとなった。
写真2●東京スカイツリー
東京タワーを超える338メートルとなった。運用が開始されると、中野区や新宿区、豊島区といったビル陰による難視聴地域や、首都圏でホワイトリストに指定されている地区でも、直接受信の環境改善が期待される。
[画像のクリックで拡大表示]

 このサービスに使用する第17番のBS中継器は、2003年以前に製造されたデジタルテレビやチューナーでこの中継器が認識されないタイプもある(写真1)。さらには、公営の集合住宅や、1980年代から90年代前半にBSアンテナが設置された民間集合住宅では、受信アンテナからテレビまでのIF(中間周波)伝送の周波数としてこの中継器からの放送の伝送に必要な帯域がカバーされていないといった問題も指摘されている。対象世帯が過疎地域で多いため、集合住宅は考慮しなくてもいい、という考え方もありうるが、老人ホームや福祉施設、病院、学校といった建物を想定すれば、重要な課題になる可能性もある。

 運用世帯の状況だが、始まったばかりということで受益世帯は、東京都利島村179世帯、神奈川県鎌倉市や横須賀市と相模原市2669世帯,栃木県日光市など2559世帯である(3月末現在)。まずは「キー局の対象地域内」から運用が始まった格好だ。今後は、北海道や先島・八重山諸島まで、日本列島の地デジが届かない地域を対象に、その対象世帯が月を追うごとに増加するであろう。なお、該当地域で全くBS波を受信していない場合は、「対策BS」を受信するためのBSアンテナ設置費用も補助されることとなっている。また、BSデジタル受信機は、1世帯あたり1台まで貸し出される。セーフテイーネットはSDTV放送である。

 一方で、少なくともNHKの受信料がBS受信のみという「特別契約」となっている世帯には、今後このサービスにより、初めて地上で提供されている総合と教育の二つのチャンネルが配信されるということになる。こういった視聴者は、地上受信契約を結ぶことになる。

 なお,特に首都圏では、2012年度内にも運用が開始されることになっている東京スカイツリーからのNHK及びキー局の放送波の発信が始まると、現在、ビル陰による難視聴地域のため共聴施設を利用して受信している世帯や、ホワイトリストに入っている世帯も、地デジが直接受信できる可能性が少なくなさそうだ(写真2)。

佐藤 和俊(さとう かずとし)
放送アナリスト
茨城大学人文学部卒。シンクタンクや衛星放送会社,大手玩具メーカーを経て,放送アナリストとして独立。現在,投資銀行のアドバイザーや放送・通信事業者のコンサルティングを手がける。各種機材の使用体験レポートや評論執筆も多い。
■変更履歴
小見出しのあと第2段落の最後の文章で、「場合によっては1世帯あたり最大3台まで」としていましたが、「1世帯当たり1台」の誤りでした。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2010/04/13 11:30]