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 最近は、メンタルヘルスに関する社員向けの研修を実施する企業が増えているほか、メディアで「うつ病」などのメンタルヘルスの話題が取り上げられることも多い。このため、以前と比べると、メンタルヘルスに対する理解は進んでいる。また、大手ベンダーを中心に、カウンセラーや相談窓口を用意したり、こころの病からの復職プログラムを整備するなど、社員のメンタルヘルスへの企業側の対応も改善されてきた。

 こうした事実だけを見ると、ITエンジニアのメンタルヘルスを取り巻く状況は、以前よりも良くなっているように思える。しかし、カウンセラーとして、現場でITエンジニアの相談に乗っている筆者の感触では、決してそんなことはない。むしろ、悪化しているのが実態だ。

ますます難しくなる休職からの復職

 その大きな要因は、リーマンショックに端を発する世界的な不況にある。

 長引く不況で、ITベンダーの受注金額は落ち込んでいる。当然、各ベンダーにとってはコストカットが至上命題。コストを抑えるためには、少数精鋭でシステムを作った方がいいので、現場のプロジェクトマネジャーは、社内の要員を厳選せざるを得ない。

 その結果、優秀なエンジニアにはますます仕事が集中し、仕事の効率が悪い「メンタルヘルス不調者」には、なかなか仕事が来ない状況になっている。仕事が来ないと、ちょうど潮が引いて岩が露出するように、社内で目立ってしまい、肩身は狭くなる。そうなると、メンタルヘルス不調者はますます自信をなくし、こころの病が悪化しやすい。実際「忙しく働く同僚の脇で、売り上げに結び付かない作業をしているうちに自信をなくし居場所を失ってしまったように感じている」という相談を受けたことがある。一方、仕事が集中する優秀なエンジニアも、過重労働のためにこころの病を誘発しやすくなっている。

 さらに、こころの病による休職からの復職も、難しくなっている。不況のため、こころの病で仕事の効率が悪くなっている人を受け入れる余裕が、企業側になくなっているからだ。

 約1年間の休職からやっと復職できる状態に病状が改善してきた人が、復職判定の場で上司から「いま戻っても仕事がないから、もう少し休んでいてくれ」と言われてしまった---というケースが、IT業界では現実に起きている。職場に戻っても仕事が与えられず、1人で勉強しているうちに「やはり自分は役に立たないのだ」と思い込み、うつ病が再発してしまったケースもある。もともと難しい復職が、不況により、さらに難しくなっているのだ。復職できなければ、退職に追い込まれる可能性は高くなる。

重要になるセルフケア

 このように、ITエンジニアのこころの病の問題は、不況下でますます深刻化している。こうした中で重要になるのは、やはり「自分の健康は自分で守る」という「セルフケア」の考え方である。「会社がなんとかしてくれる」という考え方では、良いメンタルヘルスはキープできない。そこで、ここでは、セルフケアの重要なポイントを説明しておこう。

 セルフケアのポイントは、2つある。1つは、ストレスとうまく付き合うことで、こころの病を予防すること(ストレス対策)。もう1つは、現在の自分のメンタルヘルスの状態を常に把握し、いつもと違うことに気が付いたら、自分一人で抱えずに早め早めに専門家に相談することである。

 ストレス対策では、気楽に話ができる友人や家族、上司や同僚などの存在が非常に重要だ。なにか気になることがあったときに彼らに話を聞いてもらうと気持ちが楽になり、どうしたらよいのかが自分で見えてくることもある。もちろん、仕事のことを忘れて夢中になれる趣味や、運動で体を動かすことは上手なストレス発散につながる。ストレスに強くなるために、自分の「考え方」を変えることも有効だ(本特集の「予防編」を参照してほしい)。

 自分のメンタルヘルスの状態は、例えば、厚生労働省のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」に載っているチェックリストで把握できる。友人や家族など信頼できる人の意見も参考になる。

 メンタルヘルスの状態がいつもと違う時は、まずは、会社の健康管理室で産業医や保健師、看護師に相談しよう。健康管理室がない場合は、無料の相談窓口もある。相談窓口としては、労災病院の「勤労者心の電話相談」や精神保健福祉センターなどである。厚生労働省の「こころの耳」にも、相談窓口のリンクが載っている。

 最近は、社内にカウンセラーを配置している企業も増えている。医師ではないので医療行為はできないが、カウンセラーはあなたの悩みをじっくり聞いてくれるはずだ。カウンセラーには一般に守秘義務があるので、相談内容が外に流れてしまうことはない(例えばカウンセラーの資格の一つである「産業カウンセラー」は、倫理綱領で守秘義務が定められている)。どうしても心配なら、相談した時に守秘義務のことを確認すればいいだろう。

 こころの病が疑われるときは、病院やクリニックの精神科や心療内科を受診する。この場合は、ネットで検索し、診察方針などを確認してから行くとよい。

 「良いカウンセラーや医師をどう見分ければいいのか」という質問をよく受ける。医師に関しては、精神科医である和田秀樹氏の『精神科医は信用できるか』(祥伝社刊)にある「良い精神科医かどうかを見極める6つのポイント」が参考になる、それは、(1)初診の診察に時間をかけてくれるか(2回目以降の時間はあまり関係ない)、(2)自分の好き嫌い(医者との相性)、(3)医者が「社会適応」を考えてくれるか、(4)その医者に通って状態が良くなっているか、(5)家族から見た評価(家族も医者と話ができるか、家族から見て患者が良くなっているか)、(6)「薬の出し方」について、きちんと説明があるか---というものだ。カウンセラーについては、「相談者を一人の人間として尊重する態度で接しているかどうか」で判断すればいいだろう。

粟竹愼太郎(あわたけ しんたろう)
シニア産業カウンセラー、2級キャリア・コンサルティング技能士
1965年に富士通信機製造(現・富士通)入社。以降、SE部門で金融、製造、宇宙、科学などの各種業種のシステム開発やマネジメントを担当。2005年末に産業カウンセラーとして独立。現在は、主としてIT系企業でメンタルヘルスやキャリアに関するカウンセリング、研修などを実施するとともに、日本産業カウンセラー協会の産業カウンセラー養成講座指導者を務める。2007年に「SEのメンタルヘルス研究会」を立ち上げた。