PR

 日産自動車による電気自動車「リーフ」の予約受付が4月1日に始まった。発売は12月になるという。リーフには、充電ステーションの位置表示など電気自動車の必須機能に加えて、携帯電話を使ったリモートコントロールでのエアコン作動など、自動車の付加価値を高める機能が搭載される予定だ。

 日産リーフだけでなく、自動車にはカーナビをはじめ様々なデバイスにIT技術が持ち込まれて始めている。もちろん自動車に限らない。インターネットやほかの機器との通信/連携機能を持つ家電製品も登場している。

 以前から自動車や家電製品には、組み込み(ET:Embedded Technology)ソフトウエアが搭載されており、ハードウエアを制御してきた。その基本的な仕組みは今後も変わらないが、ITと同じようにシステム間で連携するようになってきたり、ITで実績のあるプラットフォームが採用されるようになってきた点がこれまでとは違う。この流れは、今後ますます大きくなっていくと思われる。

 製品の機能や仕様だけでなく、製品の開発手法にもIT分野で培われた技術が使われ始めている。例えば、オブジェクト指向プログラミングやオブジェクト指向設計、繰り返し型の開発手法を取り入れるET開発者が増えているのだ。

熟練技術者の不足が切実

 同じソフトウエア開発の領域でも、ITとETはこれまで別々に発展し、交流もあまりなかった。両者の事業構造が異なるためだ。

 ITのソフトウエア開発は“マルチベンダー”という言葉に象徴されるように、メーカー横断的である。ネットワークやハードウエア、OS、ミドルウエアというレイヤーごとにデファクトスタンダードがあり、それらを組み合わせてシステムを開発するのが一般的である。開発プロジェクトも、大規模なものになれば1社で完結することは少なく、複数の会社がプロジェクトを組むことが多い。そのため、開発手法やマネジメント手法、スキル評価についても、アジャイル開発やPMBOK、ITSS(ITスキル標準)など共通の基盤を整備することに熱心である。

 一方、ETはハードウエアとソフトウエアの一体感が強いという性格上、レイヤーごとにメーカーが競い合い、その中からデファクトスタンダードが生まれるという状況にはなりにくい。また、自動車や家電製品、携帯電話、社会インフラなど開発する製品が多岐にわたるため、開発手法なども現場ごとに全く異なる傾向にある。

 こうした背景に加え、自動車の制御に代表されるミッションクリティカルな要求に応え続けるために、“枯れた技術”を求める傾向がETでは強い。動作が保障されたソフトウエアを継ぎ足しながら利用する状況が増えている。このような状況で求められるのは職人芸を持った熟練の技術者であるが、ソフトウエアの規模や機能の複雑さが増大する現在では、その数の不足が問題になりつつある。

 このような状況は国やメーカーにとっても切実だ。国を挙げた取り組みも始まっている。自動車業界においては標準化団体JASPARの「自動車向け共通基盤ソフトウエア開発」など、業界を横断した成果を上げ始めている分野もある。メーカー間で競争すべき領域(アプリケーション)と、競争しなくてよい領域(プラットフォーム)を分け、非競争領域については共通化と標準化を進めようという戦略だ。いわばIT業界で培ってきたノウハウをETに展開しようとしているようなものだ。

 このような戦略は自動車分野だけでなく、家電や電力といった業務ドメイン単位、あるいはOSやミドルウエアといった要素技術レベルでも取り組みが広まっている。しかし、このような大きな取り組みの成果が現場に届くには時間がかかる。その上、今後はクラウド連携といった新しい付加価値が求められるようになるだろう。それらを実現するために、効率のよい開発手法や開発環境も求められている。ITを由来とする技術へのニーズはますます高まってくる。

手応えはある

 筆者らは長年企業の基幹系システムや業務パッケージ、Webサイト構築などといったIT系の開発に従事してきた。このような時代背景の中、数年前からET系の開発にビジネスの可能性と技術者としてのモチベーションを感じ、チャレンジを続けている。

 そこで発見したのは「ITでは当たり前の開発技術がETでは使われていない」という事実である。もちろん両者の適用範囲は違うし、開発技術はプロジェクトに応じて適材適所ではある。しかし、筆者らは、IT由来の開発技術や考え方を持ち込むことで、ETにおける開発をよりよくしていける可能性があるという手ごたえをつかみつつある。ITとETの技術を融合し、二つの開発における橋渡し役となりたいと考えている。

 前置きが長くなってしまったが、筆者達は現場レベルでのITとETの融合は今からでも始めることができると考えている。今回の連載の狙いは、「ITの開発技術をどのようにETに適用していくと有用なのか、実践例を使いながらわかりやすくお伝えすることで」ことである。

 私たちと同じET分野に興味を持たれているIT技術者の方々を想定読者として書き進める。その結果、ETの仕事に実際に取り組むIT技術者が増え、人材レベルでのITとETの融合にも一役買えれば幸いである。

 実は筆者たちは、先ほど説明した「自動車向け共通基盤ソフトウエア開発」に携わっており、コンポーネント指向やモデルベース開発といった、「IT業界では広く使われているソフトウエア開発技術のETへの適用」を実際に体験している。今回の連載では、ここで筆者たちが得られた知見を一般化し、広くIT技術者やET技術者の方にも興味を持っていただけるよう工夫しながらまとめたい。また、テストの自動化やUMLの使い方など、筆者達独自の取り組みについても可能な限り取り上げるつもりだ。

 次回は、自動車業界におけるコンポーネント指向に対する取り組みの概観を説明し、具体的な手法についても取り上げる。

岡島 幸男(おかじま ゆきお)
永和システムマネジメント サービスプロバイディング事業部 担当部長
1971年福井県生まれ。同志社大学経済学部卒業後、株式会社永和システムマネジメントに入社。業務系開発でエンジニアとしてのキャリアを積み、現在は主に、組み込み系開発グループのマネジメントを行っている。著書に『ソフトウェア開発を成功させるチームビルディング』(ソフトバンククリエイティブ)。『受託開発の極意―変化はあなたから始まる。現場から学ぶ実践手法』(技術評論社)ほか。

高橋 修(たかはし おさむ)
永和システムマネジメント サービスプロバイディング事業部 主任
2001年、株式会社永和システムマネジメントに入社。モバイル機器のエージェント開発や業務系システム開発を経て、現在は組み込み分野向けのミドルウエア開発に従事している。