PR

 地上放送の完全デジタル化によって空く周波数のうちV-Low帯(VHFの第1~第3チャンネルの18MHz幅)を利用したマルチメディア放送を念頭に置いた議論が、総務省の研究会で進められている。実用化の準備で先行するV-High帯を利用したマルチメディア放送(現在NTTドコモあるいはKDDIが出資する会社がそれぞれハード事業に参入準備中)は、全国に同じコンテンツを送信することになっているのに対し、V-Low帯は地域別の異なった情報を送信できることが特徴である。

 地域別の異なる情報配信メディアという特徴を生かして、総務省は「ラジオと地域情報メディアの今後に関する研究会」を開催し、このV-Low帯を地域情報メディアとして活用できないかと議論を行ってきた。ここでは、まず番組の自社制作比率が高く、また防災情報の提供など地域住民にとって重要な情報ツールの役割を担っているアナログラジオ放送を重要な地域情報メディアと位置づけている。その上で、デジタルラジオとしてV-Low帯へ移行する道筋に関する議論してきた。

 それと同時に、デジタルラジオにとらわえず、地域情報メディアとしてV-Low帯の放送波を利用する様々なサービスの可能性、タブレット型を含む各種の想定端末の姿を議論した。現在は、報告書素案(文章化の前の段階)を作成し、パブコメの募集を開始している段階である(発表資料へ)。

 報告書案をまとめる前の段階での意見募集というのは、異例の展開とも言える。研究会も様々な用途を想定しているが、現場から地域情報メディアとして魅力な提案があれば、積極的に取り上げていこうという考えのようだ。

 V-Low帯については、一部に「iPadでラジオ受信」という報道もあったが、iPadのようなタブレット端末にラジオ放送を受信する機能はいまでも実現でき、メーカーによる製品企画マターである。V-Low帯マルチメディア放送は、ラジオ放送と一緒に、各種のコンテンツ(画像・音声・データをいかようにも組み合わせたもの)が一緒に送ることができる。例えば、タブレット端末にV-Low受信機を搭載すると、電子新聞/チラシや電子書籍、地域の情報などを受信できる。ついでに、デジタルラジオ放送を受信できるというのがV-Low端末の一つの姿である。

図 V-Lowのセグメント利用目的イメージ(研究会の素案から)
図 V-Lowのセグメント利用目的イメージ
(研究会の素案から)
[画像のクリックで拡大表示]

 現行のアナログラジオ放送でも、FM放送のほんの一部の帯域を利用して、例えばカーナビのVICS用に渋滞情報がデータ多重放送として提供されている。ただし、帯域が狭いため使える用途は限定的だった。V-Low帯では、放送波そのものをデジタル化するため、格段に大容量化される。それを前提に、NHK/民放以外の第三のプレーヤによる利用の拡大を、研究会は想定している()。ラジオ放送は重要な地域情報を担うアプリケーションの一つだが、ラジオ放送以外の様々なプレーヤが相乗りすることで、そのV-Low端末はラジオのデジタル化以上の魅力を発揮できることになる。

 研究会では、第三局によるサービスとして、交通、教育、福祉、新聞、雑誌、観光などを例示する。こうしたサービスを単独で提供するという考え方もあれば、ラジオ放送と連動させるなど相乗効果を狙う手もある。端末としては、携帯電話相乗り、タブレット端末相乗り、車載端末相乗り、電子教科書相乗り、安心安全端末などを挙げる。

 もっとも、その送信インフラの金額が大きいと事業参入のハードルが高くなる。一般論で言えば、人口の少ない地域ほど、インフラのコスト負担が重くなり、事業化が難しい。そこで、研究会では、1セグメントをひとりに届ける単価を同じにするという傾斜配分の考え方を打ち出した。人口カバー率90%を達成するのにかかるコストを仮に700億円と見積もり、償却期間を15年と設定してかかるコストを計算している。かかる費用は関東広域局だと1セグメント当たり年1億3600万円だが、例えば愛媛県だと年800万円ですむという数字を目安として示している。地域によってはもっと安価なところもある。

 さらに、コンテンツのデジタル配信では、この1セグメントを分割して利用できる。常に少しの帯域で放送したい場合もあれば、時間分割という考えもありえる。V-Low帯の1セグメントに、多数のアプリケーションが地域情報メディアとして相乗りすれば、その相乗りする事業者でコストを按分でき、もっと安価になる。こうした仕組みを、いわゆるハード・ソフトの分離という事業構造の中で、実現しようということである。

 研究会では、置局のマイルストーンとして2020年に、全国すべての小中学校でV-Low直接受信が可能になるというスケジュールを示している。研究会が示したV-Low帯のセグメントの配置では、途教育アプリの送信も想定しており、デジタル教科書という用途を強く意識しているようだ。

 安心安全端末としては防災行政無線の戸別受信機の配布と同様のイメージで、置局にあわせて自治体が配布することも研究会は想定する。

 とにかく地域情報メディアとして多くのアプリケーションが相乗りすれば、V-Low帯には大きな可能性が出てくる。少なくとも、地上波を利用して地域メディアとして活用できる帯域が空く機会はもう二度とないかもしれず、研究会報告書が読者として想定する「地方自治体」や「地域情報メディアに新規参入を考えている企業/組織」にとって、見過ごすことのできない動きだろう。