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デザインありきの独特な実装、きょう体内で同軸線を引き回す

アンテナ配置という観点から、iPadの設計の特徴はなんでしょうか。

 アンテナと基板を同軸線でつないでいるという点ですね。こうした手法は、一般的な携帯端末では使われません。同軸線を使ってアンテナに給電すると、必ず給電損失が発生してしまうからです。

ただ、長い距離を引き回すには同軸線しかないわけですね。

そうです。

一般的な携帯電話端末の場合、どのような手法を使うのでしょうか。

 通常は、アンテナと基板をできるだけそばに配置して、基板の端子に直接アンテナをつなげてしまうんです。きょう体が金属でなければアンテナをどこに配置しても電波が通るので、どこにでもアンテナを置けるからです。

 iPadの場合、わざわざ背面全体を金属にしているがために、同軸線を使わざるを得なかったのでしょう。

一般の携帯電話機やスマートフォンに比べ、iPadのきょう体がかなり大きいことも理由ではないでしょうか。

 そうですね。それも理由の一つです。きょう体が大きい一方でアンテナを配置する場所が限られているため、基板とアンテナの距離が離れてしまい、同軸線を使う必要があったと言えるでしょう。

 結局、こうした特徴的な接続方法を採ったのは、このデザインをやりたかったからということですね。液晶パネルのこの大きさときょう体の薄さを実現するには、金属の一枚板にする必要があったのでしょう。それに合わせて、同軸線を引き回すという手法を採ったのでしょう。

真似を防ぐための徹底的な対策

このほか、アンテナの実装について何か気付いたことはありませんか。

  アンテナの方式ができるだけ分からないようになっている点です。例えば、ロゴマークの裏にあるアンテナは、金属で隠されたうえで、さらに樹脂で固められています。

 こうした意図は、アンテナ以外のところにも見て取れます。一般的な携帯端末では、基板の材料(レジスト)に緑色のものを使っていますが、iPadではブラックレジストという真っ黒なものを採用しています。

ブラックレジストを使ったのも、何かを隠すという意図があるのでしょうか。

 基板メーカーに聞くと、「隠す意図があるのだろう」とのことでした。一般的な緑のレジストの場合、配線パターンがはっきりと見えてしまいます。しかし、ブラックレジストを使うと、パターンが見づらくなるのです。アップルの製品はすぐ真似されるので、少しでも時間を稼ぐという意図があるようです。

 国内のメーカーはそれほど真剣には見ないのですが、中国のメーカーなどが真似するときは、基板を細かく削っているのでしょう。地道に削れば内部の配線が出てくるので結局は分かってしまうわけですが、パッと見では分からないので時間稼ぎにはなります。

 iPhone 3GSでは一般的な緑色のレジストを使っていたようですが、そうした意図があって、iPadではブラックレジストを使ったのだと思います。他にも目的があるのかもしれません。いずれにしても、あまり見たことがないですね。

なるほど。最近、Webなどで公開されている様々なiPhone 4の分解記事が公開されていますが、それらを見ると、iPhone 4でもブラックレジストが採用されているようですね。

製品戦略を意識した無線LANの基板構成

無線通信関連の基板は、3G基板と無線LAN基板の二つに分かれています。理由として、何が考えられるでしょうか。

 3G基板と無線LAN基板を分け、離れた位置に置いたのには、次の意図が考えられます。(1)無線LANの基板とアンテナをできるだけ近くに配置したい、(2)3G基板を別にすることで、Wi-FiモデルとWi-Fi+3Gモデルの作り分けをしやすくした、(3)無線LAN関連チップが3G基板の面積には入り切らなかった、(4)電池が2分割することで真ん中に無駄な空間ができたため、そこを利用した。

(1)の基板とアンテナを近くに配置するというのは、できるだけ同軸線を短くする狙いがあると思いますが、それは低コスト化のためなのでしょうか。

 そうした意図もあるかもしれませんが、それよりはむしろ無線の性能のためでしょう。

同軸線が長くなると性能が落ちるのですか。

 同軸線が長ければ長いほど、ゼロコンマいくつという単位ではありますが、ロスが何dBか増えてくるので、同軸線は短いに越したことはないんです。

 無線LAN基板はロゴマークのアンテナの位置に配置されていますが、こちらの無線LANアンテナ1をメインとして使うため、同軸線の長さを短くしてロスを減らすという意図があるようです。

 一方、無線LANアンテナ2は補助として使うため、多少同軸線が長くなってもよいという考えなのかもしれません。これは、iPadを机の上などに置いた場合、メインの無線LANアンテナ1が隠れてしまうときに働くのでしょう。

そういう制約がなければ、無線関連のチップは同じ基板に寄せた方がよいのでしょうか

 その方が電源のドロップも少なくなるし、ロスも減って電池の持ち方が長くなるので、その方が良いと思います。