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 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務めて急成長を支え、『ダメな“システム屋”にだまされるな!』(日経情報ストラテジー編)の著者でもある佐藤治夫氏が、情報システムの“ユーザー企業”における経営者・担当者の視点で、考慮するべきことや、効果的な情報化のノウハウなどを解説する。(毎週月曜日更新)

 前回(第34回)は日本政府、特に旧通商産業省(現経済産業省)によるコンピュータ産業育成政策の“失敗”について説明しました。今回はもう少し視野を広げて、情報化の恩恵が豊かさにつながっていない問題について書きたいと思います。

工業化は日本を豊かにしたが・・・

 情報化と対になる概念として工業化があります。工業化は日本を経済的に豊かにし、GDP(国内総生産)などの指標で世界有数の先進国へと成長させました。公害などの大きな問題を起こしながらも、日本人の生活は豊かになりました。国際的に見ても、日本は工業化という“波”の中で、先頭集団として果敢に挑戦し、成功と失敗を重ねながら、豊かな社会を築いてきたのです。

 それでは情報化という“波”の中での日本はどうだったでしょうか。先進的な情報活用によって競争力を高めた“ユーザー企業”や産業がどれほどあったでしょうか。あるいは、IT(情報技術)ベンダーやシステムインテグレーターなど供給側で、国際競争力を持つような企業がどれほど生まれたでしょうか。身近な生活の利便性が高まった事例がどれほどあるでしょうか。

 こう考えると、工業化で成功した日本が、情報化では失敗したことは明白です。工業化の失敗は、公害などの形で具体的に表れます。一方で情報化における失敗は、形に表れないのが厄介なところです。「情報化が効果を生まない」のが失敗なので、具体的に見えにくいのです。

工業製品にとどまらなかった米国の情報化

 日本の情報化の課題を考える前に、米国を概観します。米国は工業化においても情報化においても成功した国だと言えるでしょう。

 工業化で重要な原則は「規模の経済性」です。高度に工業化が進んだ米国では、規模を追求する中で巨大企業が多数生まれました。そして巨大企業を頂点とし、部品製造業が層を成すというピラミッド構造が出来上がりました。その過程で、産業基盤という観点でも、雇用創出という観点でも、国が豊かになっていきました。このことは米国に限らず、工業化が進んだ各国で見られる現象です。

 米国の情報化は、もっとダイナミックな動きの中で発展しました。当初はIBMなどの大型汎用機の完成品メーカーが工業化の原則に従って、ピラミッド構造を作り、製品を大量生産して諸外国に輸出しました。