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BABOKにおけるビジネスアナリシスの定義

 では、そもそもビジネスアナリシスとは、どのような活動を意味するのだろうか。BABOKにおけるビジネスアナリシスの定義は次の通りだ。

ビジネスアナリシスは、タスクとテクニックの集まりである。組織の構造とポリシーおよび業務運用についての理解を深め、組織の目的の達成に役立つソリューションを推奨するために、ステークホルダー間の橋渡しとなるタスクとテクニックをまとめて、ビジネスアナリシスと呼ぶ。

 IIBAはビジネスアナリシスを、なんらかのビジネス変革の目的で行うとしており、情報システムの変革はその手段の一つにすぎないという位置づけである。従って、BABOKの最新版であるVersion2.0も、「ソリューション」と呼ぶビジネス変革の実現手段を情報システムに限定していない。ソリューションには、ITによらないビジネスプロセス変革やアウトソーシングなどが広く含まれるとしている。

 確かに、はじめからソリューションをITに限定しない考え方は、理論としては筋が通っている。最初からソリューションをITと決めてかかって、十分な検討を行わない結果、ITソリューション導入に失敗している例も数多い。

 しかし情報システムがソリューションのかなりの割合を現実には占めること、BABOKでビジネスアナリシスの活動で利用することができるとされているテクニック(後述)の記述が、かなりITソリューション寄りにバイアスがかかっていること、なによりも本連載の読者がITソリューションにかかわる課題解決のヒントとしてBABOKに期待を寄せているであろうことを考慮して、本連載ではあえて「ソリューション」を「情報システム」として、これ以降、解説を進めることにしたい。

 上述のBABOKにおけるビジネスアナリシスの定義によると、ビジネスアナリシスの目的は、組織がその目的の達成を可能にするソリューションを推奨するために、組織の構造、ポリシー、運用を“理解すること”とある。要するに、「ビジネスを分析すること」(IIBAのKevin Brennan)である。

 しかもビジネスアナリシスは、その理解に基づいて、ステークホルダー(利害関係者、表1を参照)間の橋渡しになることを目的として行われる、とある。

表1●BABOKが示す一般的なステークホルダー
一般的なステークホルダー例および他の役割
ビジネスアナリストビジネスシステムアナリスト、システムアナリスト、プロセスアナリスト、コンサルタント、プロダクトオーナーなど
顧客市場、地理、業界などでセグメント化する
ドメインのSME(Subject Matter Expert、ある特定分野の専門家)部署や職務などとは分けて考える
エンドユーザー部署や職務などとは分けて考える
実装のSMEプロジェクトのライブラリアン、変更管理担当者、構成管理担当者、ソリューションアーキテクト、開発者、データベースアーキテクト、情報アーキテクト、ユーザビリティアナリスト、トレーナー、組織変革コンサルタントなど
運用サポートヘルプデスク、ネットワーク技術者、リリースマネジャー
プロジェクトマネジャースクラムマスター、チームリーダー
サプライヤプロバイダ、コンサルタントなど
テスト担当者品質保証アナリスト
規制者行政府、規制担当機関、監査役
スポンサーマネジャー、経営幹部、プロダクトマネジャー、プロセスオーナー

 とすれば、BABOKにおけるビジネスアナリストは、「理解したビジネスの問題」と「推奨されるソリューション」をステークホルダーに橋渡しするところまでが役割で、ソリューションの実行の主体者、つまりビジネス問題解決の主体者は別、という定義になりそうだ。実際、BABOKには、「ビジネスアナリストは、真のニーズを引き出すことに責任を負う。また部署間のコミュニケーションを積極的に推し進め、時にはさまざまなグループ間の「通訳」となる場合もある」という記述もある。

 この役割自体に全く異論はないが、どうもこのあたり、ビジネスアナリストは専門職種ではないと言いながら、役割が専門職種化する傾向が強い欧米型の世界観に強く影響を受けているように思われる。つまり、ビジネスアナリストの活動範囲や権限を、「問題解決の主体者とは距離を置くファシリテータ」に限定することで、ビジネスアナリストが専門職種化することを推奨しているようにさえ思えるのだ。事実、北米では「ビジネスアナリスト」という職種は確立されており、キャリアパスとしても認知されている(図3)。

図3●ビジネスアナリストの以前の職種とこれから目指す職種
図3●ビジネスアナリストの以前の職種とこれから目指す職種
キャリアパスとして「シニアビジネスアナリスト」という職種が確立している。
[画像のクリックで拡大表示]

 これは欧米型のトップダウンのマネジメントスタイルでは自然な考え方と思われる。トップから明確な権限と責務が付与されることを前提にすれば、“ファシリテータ”としてのビジネスアナリストが機能する土壌は十分にあるのだろう。

 しかし、この考え方が、基本的に現場中心で、ビジネスの問題解決が、混然一体とした“すり合わせ文化”の中で行われる傾向が強い日本の組織に適合するかどうか、十分な検討の必要があると思われる。この問題については、BABOKの実務適用の回での検討事項としてみたい。