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セコム 取締役会長 木村 昌平 氏
セコム 取締役会長
木村 昌平氏

 当社は「あらゆる不安のない社会の実現」という事業ビジョンを掲げている。この事業ビジョンを実現するうえで、ITは極めて重要な要素となっている。

 ITの進化は社会の構造を根本的に変えた。そして、産業の創造的破壊を促進した。特筆すべき動向の1つは、インターネットの普及により、「マーケットドリブン」の社会に変化したことである。

 顧客はネットワークを通じて多くの情報を獲得できるようになった。獲得した情報と自らの価値観、つまり自分の個性に従って、商品やサービスを厳しく選定していく。企業は市場をリードする「個客」に真剣に向き合わない限り、マーケットから退場するしかない。従来の企業主導によるマーケットは完全に「個客主導」に切り替わった。このような「ITによる創造的破壊」がもたらす状況から、新たな企業価値を創造するのもITである。

 ITという言葉が登場する以前から、セコムはコンピュータを活用して企業価値の創造に努めてきた。当社のコンピュータやネットワーク活用の歴史は1960年代までさかのぼる。初めは中核の警備事業に適用した。66年に契約先の遠隔監視を可能にするオンライン・セキュリティシステム「SPアラーム」を導入した。

ITは既存事業を変え、新事業を創出する力となる

 これにより常駐警備に頼っていた現場を改革できた。警備に必要な人員構成を見直し、人員を200分の1から300分の1に削減でき、より効率的な警備体制を整えることができた。オンライン化によって監視先を広げられたため、警備事業の対象が一気に拡大した。

 SPアラームは警備のビジネスモデルを大きく変えた。当時からITはセコム成長の原動力となっていた。

 ITは既存の事業を変えるだけでなく、新しい事業を創出する力ともなっている。代表例が94年に開始した遠隔医療支援サービス「ホスピネット」やモバイル・セキュリティシステムの「ココセコム」だ。

 ホスピネットは画像診断を遠隔で支援するサービスだ。医療機器のMR(I 磁気共鳴画像装置)で撮影した患者の画像をネットワーク経由で専門医に転送し、その読影結果を契約先の医療機関に提供する。これにより患者の「待ち」が解消されるし、契約先である医療機関の稼働率も大幅に向上した。

 もう1つのココセコムは、GPS(全地球測位システム)と携帯電話機能を活用した位置検索サービスだ。盗難車両の位置把握、認知症患者の保護などで大きな効果を上げている。高齢化社会の到来によって、日本は新たな不安を抱えざるを得ない状況になったが、ココセコムによって、高齢者社会になっても「安全」を確立できる。

 ITをベースにしたココセコムは、新しいマーケットを切り開いた。ココセコムは国内1億3000万弱の個人と、9000万台の自動車に関連したサービスとして、市場を大きく拡大させた。それまで市場は300万の事業所や4700万の住宅に限定されていた。

 最新技術は既存業務の革新にも大きく貢献している。画像認識技術を適用したオンライン監視システム「AXシステム」がその一例だ。AXシステムでは、警備用カメラに写った画像を解析する技術を採用している。これにより、監視センサーの数を10分の1から50分の1にまで減らすことができた。

 この画像認識技術の研究開発をさらに推し進め、将来は「不必要出動」を減らせるようにしたいと考えている。現在の緊急出動のうち、実は99%以上は必要のない出動である。現状ではセンサーが何らかの反応を検知すると、警備員は万が一を考えて、目視確認のために現場に行かざるを得ない。センサーと画像認識技術を組み合わせれば、より的確に現場の状況を確認できるようになる。

哲学あってこその事業革新、不安のない社会の実現

 このようにセコムはITの導入によって様々な事業革新を進めてきた。その裏で一貫しているのは、冒頭に紹介した「あらゆる不安のない社会の実現」というビジョンである。そして、このビジョンの根底にはセコムの「哲学」が存在する。

 企業は社会に価値をもたらすことで初めて利潤を得られる。私はその価値を支える“根っこ”が哲学だと考えている。

 哲学があってこそ、企業は社会との良好な関係性を維持し、価値の提供を続けることができる。事業を成功させるのにITは欠かせない道具だが、道具だけでは事業は成り立たない。哲学を持ち、その哲学に従って事業を創造し、ITを使いこなしていくという姿勢が大切だ。

 セコムはその哲学を「セコムの事業と運営の憲法」として掲げている。セコムの創業者である飯田亮取締役最高顧問が92年7月、創業30周年を機にグループ社員向けに自ら執筆したものである。その一部を紹介しよう。

行ってはならない事業
  • セコムの提供する社会サービスシステムは、人々の安心のための、そしてよりよき社会のためのサービスシステムである。この基本から外れる事業は、行ってはならない。
  • そして実施する事業が、かかる目的に合致するものであっても、派生的に社会に有害なものの発生が予測されるものは、行ってはならない。
  • 哲学を表現した憲法があってこそ、事業を広げても軸がぶれず、適切な運営が可能になる。

 セコムの成長は、ITによる事業革新だけではなし得なかった。事業に哲学があったからだと自負している。

 かつて日本は「世界一安全な国」といわれた。だが、96年ごろから急速に悪化し、2002年には戦後最悪のレベルにまで落ち込んだ。検挙率も73年当時は57.8%だったが、そのときには20.8%に低下しており、未検挙の犯罪数は73年の4.5倍に増えた。幸い、この時点をピークに減少に転じたが、それでも2008年の未検挙の犯罪は73年の2.5倍に達している。

 日本の治安情勢を踏まえて、セコムは今後も様々な事業革新に取り組む。ITを使って何を成すかは人の意識にかかっている。ITを生かす哲学、事業を支える哲学の重要性をいま一度、産業界全体で共有したい。