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シグマクシス 代表取締役会長 倉重 英樹氏
シグマクシス 代表取締役会長
倉重 英樹氏

 IT Japanは経営に対するITの役割をテーマにしたセミナーであることは十分に承知しているが、あえて「21世紀は、人とその人が持つ能力に焦点をあてなければならない時代」ということを述べたい。

 日本の現状を振り返ると、製造業では技術に勝ってビジネスに負ける事例が多発している。真の意味でのイノベーションが起きていないためだ。また、サービス業の生産性は依然低く、日本生産性本部の調べによれば2008年の労働生産性は先進7カ国中で最下位だ。


ダイバーシティーマネジメントで多様な人材を活用する環境を構築

 この苦境から抜け出すには多様な人材を生かす経営戦略、すなわちダイバーシティーマネジメントを行うべきだと私は考える。イノベーションという言葉でシュンペーターが唱えた“革新”には、生産技術の革新だけでなく、新しい市場や資源の開拓、新しい経営組織の実行も含まれる。そこで、多様な属性と価値観の発想を取り入れることによってビジネス環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、企業の成長と個人のモチベーションを連動させるのだ。

 そのためには“疲労創造行為”でしかないネゴシエーション(妥協点の発見)から“価値創造行為”であるコラボレーション(目標の共有・活動の同期化・結果の共有)への転換が必須だ。具体的には、経営のビジョンを明確にしたうえで画一的マネジメントから社員を解放し、コラボレーション環境を整備することで多様性のレベルを向上させていくというステップを踏み、解決を図っていく。

 ダイバーシティーマネジメントを実践する際に参考になる考え方として、米ゴア元副大統領の首席スピーチライターだったダニエル・H・ピンク氏が提唱する「モチベーション3.0」がある。これは自発的動機や「ワクワク感」を持って仕事に臨めるようになったモチベーションの段階のことで、生存維持が動機となるモチベーション1.0、目標達成による金銭や名誉の獲得が動機となるモチベーション2.0のさらに上の段階に設定されている。言うまでもないが、1人でも多くの社員がモチベーション3.0の段階に到達すれば個人と組織の生産性が高まり、企業も成長力と競争力を向上できる。

モチベーション3.0到達に向けITを活用した環境の用意を

 このモチベーション3.0に早く到達するには、「モチベーション3.0環境」とでも呼ぶべき枠組みを用意することが望ましい。モチベーション3.0環境はプロジェクトワーク、ナレッジマネジメント(KM)、能力開発フレームワーク、ライフワークバランス(LWB)、デジタル/モバイルワークプレイスなどの要素で構成され、その多くはITを使って実現できる。

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 プロジェクトワークでは、仕事の進め方をコマンド駆動型(固定組織・全員が同じ能力と役割・効率追求)からビジョン駆動(プロジェクト制・異なった能力と役割を持つ構成員・価値創造)に転換することで、市場の多様性への対応速度を高め、課題解決価値を生み出すことを目指す。そのための行動原理となるのは、「やるべきこと」を「自分のやりたいこと」に近づけていくリーダーシップと、「自分のやりたいこと」に「自分のできること」を近づけていくためのコラボレーションだ。

 KMは数年前に大ブレークしたが、顧客価値を創造するための手法として現在でも重要な意味を持つ。アクセス(Access)→活用(Leverage)→創造(Create)→共有(Share)→アクセス……というサイクリックなプロセスになっており、アクセスでは検索エンジンやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)、活用ではプロジェクトサイトやコミュニティーサイト、共有ではライブラリーなどのITツールや共有セッションが重要な役割を果たす。

 能力開発フレームワークの核となるのは、キャリアガイドと社員資産の可視化だ。その企業や組織が必要としている能力を明確に定義し、能力の評価基準と評価方法を定め、能力を開発するための計画と支援体制を作り上げるプロセスは、日本企業にはほとんど存在しなかった。その意味では、最もチャレンジングな課題だろう。

 LWBという言い方をするのは、仕事よりも生活を重視すべきという考えがあるからだ。LWBの狙いは、働く時間と場所を社員が自由に選択できるような組織運営により、組織に対する社員の貢献度を高めること。創造性や効率が高まるようなワークプレイスを用意し、チームワークとエンパワーメントを企業が推進することで、社員は家族や社会とのかかわりを増やせる。その結果、生活が充実し、気力が満ちあふれ、モチベーションや企業への貢献が高まるという考え方だ。

 モチベーション3.0環境が完成し、正しく運営されることで、社員のモチベーションは高まり、真の意味でのイノベーションが実現できる。それによって「お客さま価値の向上」という目標が達成可能となるというのが、私の言わんとする「21世紀は『人』の時代」の主旨だ。

 リーダーシップ、イノベーション、ダイバーシティー、コラボレーション、LWBなどのキーワードは、すべて「人」にかかわるもの。ワクワク感をすべての源泉とするモチベーション3.0とそれを支えるデジタルITは大きな役割を果たすと確信する。