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成城石井 代表取締役社長 大久保 恒夫氏
成城石井 代表取締役社長
大久保 恒夫氏

 成城石井の社長を務めて3年半ほどたつが、幸い業績は好調だ。平均的な食品スーパーの売上高営業利益率は2%程度だが、成城石井のそれは約8%に達する。日本の食品スーパーでは最も高いレベルにあると思う。

 今、日本の小売業は不況を反映してディスカウント合戦に終始している。だが、不況であろうとお客様は良い商品にはお金を出す。成城石井はそこに着目し、「ちょっと良い品を手ごろな値段で販売する」という戦略を進めてきた。その結果が業績に表れている。


伝える内容を絞って指示し、店員に改善の行動を促す

 成城石井の経営で大事にしているのは、売り場を良くすることだ。小売業の企業価値は売り場にある。売り場が良くなれば利益はついてくる。

 売り場を良くするのは店員である。売り場の改良は店員にしかできないから、私の経営改革では人員を決して減らさない。目先の人員削減は一時的な利益を生むだけで、根本的な解決にはならない。

 私の経営改革では、売り場の店員に売り場を良くするよう行動してもらうところから始める。そのために、売り場に指示を出す本部からの指示が店員の具体的な行動に確実に反映されるようにする。

 本部からの指示が店員の行動に反映されている度合いが「実行度」である。小売業の経営で奇策はほとんどない。売り場を良くすることに尽きる。業績の差はほぼ実行度の差である。

 実行度を上げるためには、コミュニケーションが大切だ。小売業では本部から各店舗に対し、「暑くなったら売り場にこういう商品を並べなさい」といった売り場作りの指示を頻繁に出す。

 このとき、本部側があれこれとたくさんの指示を出し、現場が対応できないことがしばしばある。売り場の店員はやることがたくさんあるので、複雑な指示は無視してしまう。それに対し本部は「こちらはしっかりとお客様の動向を分析してきちんと指示している。だから店舗が悪い」と思っている。

 しかし、この場合は本部側に改善の責任がある。売り場側に的確に伝わっていないからだ。コミュニケーションとは、相手が受け入れて初めて成り立つものだ。伝える側は伝えるべき内容を絞り込み、だれでもすぐに理解できるように簡単にまとめるべきだ。「こんなに簡単なのですぐにできます」という伝え方にすると、店員は行動しやすくなり、実行度が上がる。結果として、売り場が変わる。

 売り場の変更内容が売れ行きとしてすぐにみえる結果につながるのは小売業の特徴である。小売業は「軽くて柔らかい」。「この商品は売れるんじゃないか」と思って並べて1週間たったらその結果が出る、という商売だからだ。

 売れ行きが伸びたら、もっと売るという指示をする。売れなければ別の指示を出す。トライアンドエラーを繰り返していくことによって、売り場は良くなっていく。だからこそ、実行度の高い組織作りが大切だ。

大量のデータを素早く分析、実行度を上げる仕組みを実現

 成城石井では、こうした小売業の特性に合った情報システムのあり方を追求している。実行度を上げるために大切なのは、指示したことがどういう結果につながったか素早く把握することである。情報システムの機能としては、基本的なデータを素早く閲覧できることが最も重要だ。売り上げは上がったのか、粗利益は得られたのか、ロスは発生しなかったのか、在庫はコントロールできているのか、といった点が確認できれば十分である。高度な分析機能は不要だ。

 そこで当社が活用しているのは「ユニケージ」という開発手法である。これは、売り上げなどの“生データ”をテキストファイル形式で扱うことと、それをLinuxのOSのコマンドだけで処理することを基本に据えたものだ。特徴は高速かつ手軽に処理できること。良品計画がユニケージを採用して効果を上げており、当社も採用した。

 ユニケージなら、10万円程度のパソコンに数年分の販売データを保管できる。そのうえ、在庫数や販売数などのデータをすぐに引き出せる。一方、既存のデータウエアハウス製品は価格が高くて遅い。保管できるデータ容量も限られており、集計済みのデータしか保管できない。

 ユニケージでシステムを構築したことによるメリットは大きい。ある店で特定の商品の売れ行きが伸びていれば、数分間でその中身を分析してすぐに必要な量の追加発注をかけたり、近隣の店舗から商品を回したり、といったことが可能になった。

 また、商品の調達先と効率良く取引するために「流通BMS」という電子データ交換標準を活用している。日本の流通業はデータ交換の標準化が遅れており、効率が悪い。だが、流通BMSを採用したことで、受発注や入出荷、請求処理、支払処理のペーパーレス化を実現し、業務効率が上がった。すでに約300社との取引に流通BMSを活用している。

値下げは先細りするだけ、良い商品を手ごろな価格で

 食品スーパーのお客様の約8割は固定客だ。しょうゆを特売すれば、お客様はまとめ買いし、一時的にしょうゆの売り上げは伸びる。だが、お客様は安いからといってしょうゆをたくさんかけない。次に買う時期が先に伸びるだけだ。小売店にとって利益が減るだけの結果に終わる。

 それよりも、少し値段は高いが味が良いしょうゆを売ったほうがいい。お客様がおいしさを認めれば、買う量を極端に減らすことはない。

 成城石井は日本中、世界中を探し、良い食品を生産している食品メーカーを見つけている。そういうメーカーとはなるべく直取引にし、手ごろな価格で売り、売り場で商品の良い点をきちんとアピールする。だから、お客様からは「デパ地下(百貨店の地下にある食品売り場)に比べおいしいものが安く買える」というお言葉を頂いている。

 消費は成熟化している。人口も減っている。そんな中で値下げをしても先細りするだけだ。お客様のニーズをみて、需要を創造すること。これが小売業の企業価値を高める。

(肩書はIT Japan講演時。現在は成城石井相談役)