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ヤマト運輸 代表取締役社長 木川 眞氏
ヤマト運輸 代表取締役社長
木川 眞氏

 ヤマト運輸は、1976年に開始した宅配事業で成長してきた。2010年4月現在の車両数は4万4000台を上回り、単体の企業として最大数の車両を保有する。社員数は13万人を超える。

 すでに国内市場は飽和状態になりつつある。実際、陸運の国内貨物量は96年のピーク時と現在を比べると、20%から25%ほど減少している。そのうえ、トラック運送業の参入障壁はそれほど高くない。提供しているサービスは極めてシンプルなので、価格競争に陥りやすい事業といえる。

 幸い当社は宅配事業で荷物を順調に増やすことができた。しかし、さすが2008年秋に発生したリーマンショックでは打撃を受け、宅急便の個数が前年割れという事態に直面した。そこで海外進出、地域密着型サービスの展開、ITを活用した新サービスによって、現状打破を図るとともに、これまで以上にお客様の満足度向上を目指している。その取り組みを紹介していこう。

海外進出、地域対応、「個配」で新しい企業価値を創出

 まず海外進出の一環として、海外での宅急便ネットワークの構築に取り組んでいる。2010年1月からシンガポールと中国・上海で事業を始めた。これらの地域の経済成長を反映し、需要は着実に伸びつつある。以前から台湾では現地企業に出資し、ノウハウを提供する形で事業を展開していたが、単独で進出したのはこれが初めてだ。

 海外進出に取り組む背景には、「物流のボーダーレス化」がある。「生産拠点が海外に移転する」「ジャスト・イン・タイムで物が動く」「荷物の小口化が進む」といった様々な変化が生じ、日本の物流が力を入れてきたジャスト・イン・タイムや荷物の小口化が海外にも広がっている。

 アジアの国々で、個人から個人に荷物を送る宅配ビジネスを展開する企業はそう多くない。こうした国々で地元に根差した宅配サービスを手がけていきたい。この宅配ネットワークは海外進出する日本企業にとっても大きな価値になるだろう。今後数年間をかけてシンガポールや上海を核にして宅配ネットワークを広げていく。

 国内では、お客様のライフスタイルの変化に対応した新しいサービスに取り組んでいる。その1つが少子高齢化を背景にした地域密着型のサービス体制だ。

 地方では、少子高齢化によって買い物に出かけるのに苦労する高齢者が増えている。ネットスーパーはその解決策の1つだが、パソコンなどを使いこなせる高齢者は少ない。そこで、ヤマト運輸は地元のスーパーと提携し、宅急便の送り状を発行するタッチパネル式端末「ネコピット」から注文を受け付け、自宅まで届けるサービスを始めた。初めのうち高齢者は操作に抵抗感をみせたが、しばらくすると慣れ、「これならできる」という声をいただいている。ネコピットは当社の営業所に設置されているが、自治会館や美容院などにも設置し、地域の人がさらに利用しやすいスタイルを検証している。

顧客起点でシステムを刷新、新サービス展開の基盤に

 ヤマト運輸は「宅配から個配へ」という宅配サービスの進化形を描き、様々なサービスの開発にも力を入れている。その代表例がクロネコメンバーズ向けの「宅急便受取指定」である。このサービスは、当社が荷物を受け取るお客様に対し、配送日の前日に電子メールを送り、お客様は都合に応じて配送時間や受け渡し方法を変更できるというものだ。

 配達時に不在ということが全体の約2割に上る。当社にとって大変なコストがかかるだけではなく、受け取るお客様にもストレスを与えてしまう。この新サービスは手作業では対応できず、どうしてもITを活用せざるを得ない。

 「個配」のサービスを実現するため、ヤマト運輸は2010年から基幹システム「NEKOシステム」を第7次版に切り替えた。第7次版の特徴は、これまで以上にお客様を向いた設計思想を貫いたことだ。

 第1次から第5次までのNEKOシステムは、業務の効率化に主眼を置いており、社内のためのシステムといえる。だが、第6次からは発想の起点をお客様に変え、現行の第7次NEKOシステムは顧客起点を一段と押し進めたものになっている。

 端末側の仕組みも大きく切り替えた。2010年から稼働させた車載ナビゲーションシステム「See-T Navi」がそれだ。以前ならセールスドライバーが手書きで地図に書き込んでいた注意すべき交差点やバック侵入禁止地点などの情報を電子化し、それぞれの地域に近づくと警告するナビゲーション端末をすべての集配車に配備する。将来、ルート情報を活用し、お客様に「あと何分で到着します」と連絡できる機能も組み込む計画を立てている。

 セールスドライバーが持ち歩く端末約5万3000台も刷新した。新しい端末は、これまでの複数の端末を統合し軽量化したもの。電子マネーの決済機能なども組み込んでおり、お客様の利便性を高める狙いもある。

ドライバー品質が評価を左右、社員教育と満足度向上策を強化

 ITを使ってサービスの価値を高めることは極めて重要だ。だが、宅急便という商売の評価が最終的に決まるのは、お客様に直接接する「ドライバーの品質」である。

 そのため、ヤマト運輸は社員教育と社員満足度の向上活動に力を入れている。具体的な施策の1つが全社員を対象に毎年実施している「満足創造研修」だ。この研修では、各支店にいる「教育専任者」がファシリテーターになり、各支店の社員に様々なプログラムを経験してもらう。2009年春からはセールスドライバーの体験を集めた「感動体験ムービー」の上映会を追加した。

 このムービーでは、お客様や同僚との間で生まれた社員の感動体験を写真と短い言葉でつづっている。登場した本人から「最初に見たとき、途中から涙で見られなくなった」という声も寄せられた。鑑賞後に顧客や同僚にどんな満足を提供できるのか議論してもらっている。

 感動体験ムービーは中国語版と英語版も制作した。海外のドライバーにも日本と同様の社員教育を実施している。世界中に「ヤマト品質」を広めて、それがアジア標準、世界標準になるようにしたい。