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野村総合研究所 取締役会長 藤沼 彰久氏
野村総合研究所 取締役会長
藤沼 彰久氏

 現在の社会状況に目を転じてみると、労働生産性の低迷、人口減少・少子高齢化、ワーキングプア、都市一極集中化・地方過疎化、低炭素社会実現への要請の高まりなど様々な課題が山積している。これらの課題を解決するため、ITに大きな期待が寄せられている。


インフラメンテナンス分野でIT活用に大きな期待が高まる

 ところが、これらの社会的な課題は極めて複合的で、社会はその解決に向けた新たな構想を求めており、ITサービス産業がこれまで実践してきたやり方では対応が難しくなっている。このため、これまでのように顧客が提示したRFP(提案依頼書)に沿ってシステムを作り上げ、納品するというアプローチではなく、ITサービス産業が課題解決に向けた提案を積極的に行い、効果の創出をゴールとして捉え、対応していく必要がある。こういう「RFPのない仕事」を目指さない限り、ITサービス産業に未来はないだろう。

 ITによる社会的課題の解決の1つとしてインフラクライシスへの対応がある。インフラクライシスは構造的疲弊が深刻化し、社会インフラを維持できなくなること。その予兆が日本でも表れ始めた。例えば、2010年1月に静岡市で工業用の直径約90センチの水道管が破裂し、食品工業や金属工場など77社への給水が停止し、周辺道路や住宅29世帯の床下に浸水するという被害があった。この水道管は1958年から使用してきたもので、一般的な耐久年数である40年を超えていた。同様の事象は、日本各地で発生している。

 インフラのメンテナンスが十分に施されていないことに起因しているわけだが、通常、コストさえかければ解決は可能である。問題はコストがかけられないときにどう対応するかだ。現在、日本には700兆円を超えるインフラストックがあり、その多くが更新時期に差しかかる。そうした膨大なインフラのメンテナンスをめぐって、ITシステムへの期待は年々高まっている。

 その一例を挙げれば、橋梁の劣化状況をリアルタイムで確認できるモニタリングシステムに関する研究・開発がある。このシステムは橋梁にセンサーを設置し、システムでその振動特性を長期的に監視することで、効率的な維持管理や新規舗装による橋梁剛性の向上の確認に役立てるものだ。それにより、橋梁に関するメンテナンス費用を大幅に削減することが期待される。このほか、フランスではI Tサービス産業のベンチャー企業が自治体や企業からインフラの管理システムを受託し、リアルタイムによる履歴情報をもとにオフィスビルや住宅の建物維持とエネルギーを管理するシステムを構築している。

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 こうしたインフラメンテナンスにおけるITの強みは、エネルギーや廃棄物、交通、建物といった異なるインフラシステムを横串でトータルに捉え、管理ができるという点にある。

情報活用の「プロ」として分野・プロセス・人を結ぶ

 こうした強みを最大限に生かし、ITサービス産業も大きく変わる必要がある。これまでのように単にシステムを提供するだけではなく、それを活用するために「仕組み」を変革させるような提案をすべきだ。単なる情報化を勧めるだけではなく、業務プロセス改革やシステムの活用を支える人材面も含めたトータルな提案・支援がユーザー企業のIT投資効果を向上させていくために重要になろう。

 その際、すでに述べたITサービス業界が持つ強みが大きな武器になる。それは、様々な社会接点を横断的に保持し、社会全体の目線から鳥瞰できることだ。ユーザーによる自動車の購入から廃車に至るライフサイクルを一例に挙げれば、販売会社や保険会社、整備工場など様々な関係者が関与してくるが、それぞれの関係者は自分の仕事以外に興味がなく、情報は連携されない。ITサービス産業は、こうした一連のプロセスをトータルに横串で捉えることができ、それは他の業界の追随を許さない。

 さらに視野を広げれば、ITサービス産業はこれまで社会の様々な分野のシステムを取り扱ってきた情報活用のプロだから、自動車関連産業に限らず、様々な分野やプロセス、そして人とシステムを“ つなぐ” ことで、新たなイノベーションを生み出す可能性を秘めている。これこそ今後のITサービス産業に課されたミッションではないか。

 もちろん、それを現実のものとするには、ITを活用して新しいビジネスモデルやライフスタイル、ワークスタイルをデザインし、企業や社会に変革を起こすことのできる人材が不可欠だ。具体的には、社会の様々な課題の解消を担う「ソーシャル・システムアーキテクト」、企業のビジネス課題に対応する「ビジネス・システムアーキテクト」という新たな人材が期待される。

 ITサービス産業が今後、現在の「情報システム開発産業」から「情報活用産業」へ、さらには「知識創出産業」へと進化できるかどうか。これこそが顧客に向けたより大きな付加価値の提供を可能にし、ひいては「きつい、給料が安い、帰れない」というITサービス産業の「3K問題」を解消する重要なカギを握っているように思う。