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弁護士
大 毅

 この連載では、IFRS(国際会計基準)や内部統制報告制度にかかわる開示(ディスクロージャー)制度の基本を解説している。前々回は金融商品取引法上の開示に関する事後規制(罰則、課徴金制度)の全体像とインサイダー取引について、前回は金融商品取引法上の開示に関する課徴金制度と罰則について説明した。

 今回は、開示義務違反の民事上の責任と、金融商品取引法上の開示規制が問題となった事例を取り上げる。

開示義務違反の民事上の責任

 開示義務違反に伴う民事上の責任は、金融商品取引法により大きく改正された領域である。やや難解かもしれないが紹介することにする。

 大まかにいうと、発行開示・継続開示の規制に違反した行為を行った者は、損害を受けた当該有価証券の取得者に対して以下の民事責任(損害賠償責任)を負う。

(1) 民法上の不法行為責任(民法709条)
…発行者・発行会社の役員等

(2) 会社法上の役員等の第三者に対する責任(会社法429条)
…発行会社の役員等(任務懈怠、株式などの募集のための説明資料・計算書類等の虚偽記載)

(3) 金融商品取引法上の賠償責任 ※民法上の不法行為責任の特則
…発行者・有価証券を取得させた者・発行会社の役員・売出人・公認会計士・監査法人・引受主幹事証券会社など

 これらはすべて別個の法律に基づく請求権である。ただし、金融商品取引法上の賠償責任(3)は、民法上の不法行為責任(1)を立証責任や損害額の算定方法などの観点から修正したものだ。その趣旨は、開示規制違反の被害者(投資家)を救済することに加え、開示規制違反を未然に防止することで、金融商品取引法上の目的である市場の公正な価格形成機能を確保することにある。

 金融商品取引法上の民事責任の詳細は複雑であることから、以下の表1表2をご覧いただきたい。ポイントは3点ある。

1. 開示義務違反は本来、開示書類の発行者である会社が負うべきである。ただし、投資者救済や市場の価格形成機能確保の観点から、発行者以外の者(当該有価証券を取得させた者、発行会社の役員、売出人、公認会計士、監査法人、引受主幹事証券会社など)にも賠償責任を負わせている。

2. 募集などにより取得した、あるいは流通市場において取得した投資者は、発行者である会社に対して、無過失責任(原告が会社の過失を主張立証する必要がない)を追求できる。損害額についても法律上推定され、立証が極めて軽減されている。

3. 発行会社の役員等の責任追及についても、無過失責任ではないものの、立証責任が転換される。すなわち、投資者でなく被告である役員等が、自らに過失がなかったことを証明する必要がある。

表1●発行者の不実開示などによる金商法上の民事責任の概要
表1●発行者の不実開示などによる金商法上の民事責任の概要
『アドバンス金融商品取引法』長島・大野・常松法律事務所 編 /初版308~310ページより引用
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表2●発行者の役員の不実開示などによる金商法上の民事責任の概要
表2●発行者の役員の不実開示などによる金商法上の民事責任の概要
『アドバンス金融商品取引法』長島・大野・常松法律事務所 編 /初版308~310ページより引用
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 開示規制にはこのほか、売出人や引受主幹事証券会社の不実開示などによる民事責任について、立証責任の転換などが条文上、されている。