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弁護士
大 毅

 この連載では、IFRS(国際会計基準)や内部統制報告制度にかかわる開示(ディスクロージャー)制度の基礎・背景に重点をおいて解説している。ここまでの3回では法律上の開示制度を取り上げた。第1回で会社法、第2回で金融商品取引法、第3回で会社法と金融商品取引法における開示制度の相違点や連動について、それぞれ説明した。

 今回からの3回で、最近強化されている、金融商品取引法上の開示に関する事後規制(罰則、課徴金制度)や民事責任の概要を紹介する。加えて、過去に開示義務違反が問題となった事例について解説する。今回は全体像とインサイダー規制を取り上げる。

全体像

 金融商品取引法は第6章「不公正取引の規制」において、市場運営の公正さを害し、資本市場の機能を損なう行為を禁止している。インサイダー取引規制は、その典型的な例である。同法の目的である「資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成」(第1条)を実現することが狙いだ。

 こうした規制に違反した者に対し、金融商品取引法は、第6章の2において課徴金の納付手続を、第8章において罰則を定めている。事後規制を課すことにより、上記目的を実現しようとしている。

 インサイダー取引は金融商品取引法上の不公正取引の代表例であり、開示との関係も深い。続いて、インサイダー取引規制につき概説する。

インサイダー取引規制

(1)インサイダー取引規制とは何か

 インサイダー取引規制とは、「会社関係者等」の内部者などしか知りえない投資判断に影響を与える「重要事実」を「職務に関し」知った者が、有価証券などを売買することをを禁止する規制(金融商品取引法166条、167条)である。

 近年でも、インサイダー取引はたびたび問題になっている。大手新聞社や放送局の社員による公表前事実に基づく売買、大手証券会社の社員が外部の友人とともに内部情報を利用して売買した事例、大手監査法人の会計士による職務上の情報に基づく売買などがある。

 会社関係者等の内部者のみが知りうる情報を利用して、公表前に当該会社の有価証券の売買を行うことは、一般投資家に比べて著しく有利となってきわめて不公平である。このような取引が横行すると、市場が人々の信頼を失い、健全な投資家が市場を退避することにつながる。インサイダー取引を金融商品取引法により規制するのは、こうした事態を防止するためである。

 このインサイダー取引規制は、金融商品取引所による適時開示と深い関係がある。金融商品取引法上のインサイダー取引規制は、上場会社等において投資者の投資判断に影響を及ぼす情報が発生した場合、その情報を上場会社等が公表するまでの間、インサイダー取引を禁止する。すなわち、投資者の投資判断に影響を及ぼす情報が発生した場合には、上場会社等が適時にその情報を公表することにより、会社関係者等のインサイダー取引を防止し、規制違反を回避しているのである。

 つまり、インサイダー取引と適時開示は表裏の関係にある(森・濱田松本法律事務所編、「金融商品取引法 資本市場と開示編」442ページ)。この点については本連載で追って詳しく論ずる。