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 マスコミも世論も菅政権への期待を語る。新閣僚にはもちろんがんばってほしいと思う。だが、わが国は小泉政権以後、内閣改造を繰り返してきた。ここは冷静に前政権の評価をしておきたい。

 まずは筆者自身の反省だ。昨年の政権発足時、筆者は読売新聞のインタビューに対し「鳩山内閣はガンダム内閣」と命名した。総理以下、理系の閣僚が多い。力を合わせて旧弊と戦うと期待したのだ。その期待は無残に裏切られた。鳩山政権とはいったい何だったのか。

 今にして思えば「大道芸内閣」と予言すべきだった。私は大道芸が好きだ。プロがそろってお客を楽しませる日本が誇る伝統文化の一つでもある。だが内閣は組織プレーでありオーケストラでなければならない。個人がアドリブでやる大道芸では困る。ましてや素人が下手に演じる出来損ないばかりでは話にならない。

 大道芸内閣の看板役者はよその一座からやってきた郵政・金融担当のK大臣だった。演目はバナナの叩き売り。威勢のいい口調で人気を集めた。年季の入ったプロの技を連発させた。お話の内容は「金利を棒引きする」「預金限度額を上げる」といった甘言ばかり。結局、あとで高くつく買い物に見えてどうも怪しい。

 H総理は「思い」を連発。その正直な姿勢は同情を集めたが、仕事のほうは失敗と言い訳の連続だった。途中で奇術に挑戦し「最低でもハンカチから鳩」と宣言したが結局、できなかった。助手(官房長官)も仕事ができない。いつも小道具を買い忘れていた。ご本人は最後になってやっと「思いだけではマジックはできない」と気づいたようだが遅すぎた。ちなみに奥さんも奇妙な人で「UFOに乗った」と本で書いていたが、もしかしたら本当に宇宙人の夫婦なのかもしれない。

 観客受けが一番よかったのは「必殺仕分けシリーズ」の寸劇。これはストリート芸ではなく、印刷局の体育館を借りて演じた。シナリオでは最後には決まって悪代官が斬(き)られた。例外は子供系、福祉系の案件。これは「意外にも寛大なお計らい」で逆に予算が増えることになっていた。

 筋書きが決まっているのなら劇場でやらなくてもいいのだが、そこはエンタメだ。テレビ放映までやって、役者、いや「役人」を晒(さら)し者にした。その代わり、どんなに複雑なネタでも時間内に必ず終わった。本質を掘り下げると急ごしらえの劇場では手に負えないからだ。

 ちなみに役人いじめの寸劇は、わが国の庶民文化のひとつである。水戸黄門が典型だ。あの場合も「水戸黄門はなぜ印籠(いんろう)を最初から出さない?」「捜査してから悪代官を摘発したのか?」といった疑問が消えない。「必殺仕分けシリーズ」の場合、さすがにホンモノの政府なのだからきちんとしていると思っていたが、違った。

 なぜ国会議員が行政府(行政刷新会議)主催の会議に参加できるのか。逆になぜ国会の審議を経ずにあそこで予算を削れるのか。正統性に関する疑問は消えない。でも悪代官は確かに悪さをしていた。仕分け劇場は政治への興味を高め、政権交代を印象付けた。また座長(O幹事長)に対抗する元気な役者たちの唯一の活躍の場という意味も大きかった。やってよかった演目といえる。

 ちなみに年金問題で威勢のよかったN講談師はどうしたのだろうか。最近は楽屋裏にこもって全く出てこない。ほかの閣僚も調子がよくない。ほとんどが慣れない個人芸に挑戦し、滑ったり転んだりの連続だった。最悪は一座に指揮者が2人いたこと(O座長とH奇術師)。内閣は本当はオーケストラのはずだ。心をひとつにして同じ楽譜でひとつの曲を奏でるところが、アドリブの個人演芸大会になってしまった。

 だが一番驚いたのはこの内閣が財政再建や経済政策を全く作ろうとしないことだった。国家戦略も前政権が言っていた話を再構成しただけの付け焼き刃だ。財政再建策はいまだに存在しない。それどころか金庫の中のお金の計算や借金の返済策を考えずに、座長は子連れ客に大盤振る舞いを始めた。「大入り満員(参院選での勝利)のためなら何でもやれ」というのだ。この座長、破産してもいいからライバルの自民一座の息の根を止めることだけに血道をあげている。昔、所属していたころによほどいじめられたのだろう。

 座長はほかにも「新人を仕分け劇場に出すな」「高速料金は下げろ。建設はしろ」と無理筋ばかり。時代遅れの座長(O幹事長)と若手閣僚の間には確執もあった。だがクーデターには至らなかった。最後はH奇術師が座長を道連れ心中で退任させた。これが彼の任期中の唯一の功績だが褒めるべきか、あきれるべきか、複雑な心境だ。

 鳩山内閣は、素人のストリートパフォーマーが下手な大道芸を繰り返して終わった。次の内閣はきちんとしたオーケストラ運営をしてもらいたい。また次のオケには新人の政務三役だけでなく、各パートのベテラン奏者(官僚)を参加させるべきだ。この国難の時期、にわか仕立ての練習生(政務三役)の楽器いじりを見守る余裕はない。わが国の再生のために残された時間は限られる。内閣は政策の素人の練習場ではない。パフォーマンスの悪い閣僚はどんどん入れ替える。元官僚でも元自民党でも何でもよい。菅総理は仕事ができるプロを抜擢(ばってき)して使いこなしてほしい。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山信一

慶應義塾大学総合政策学部教授。運輸省,マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。専門は行政経営。2009年2月に『自治体改革の突破口』を発刊。その他,『行政の経営分析―大阪市の挑戦』,『行政の解体と再生』など編著書多数。