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 自治体、特に政令指定都市は膨大な不動産を持つ。例えば大阪市役所は市域の25%を自ら所有する。しかしあまり有効活用できていない。都市部の内需拡大と雇用確保のために民間に無償開放すべきだ。大阪府の特別顧問として行った調査をもとに提言したい。

膨大な自治体所有のストック

 大阪の場合、市役所が所有する土地の台帳価格は約6兆円、市域の4分の1にのぼる(関西経済同友会調査)。これは負債総額を優に上回る。ところが市役所はこのうちのわずか約4%だけを未利用地と指定して売却を進めている(目標額1000億円)。だが、実際には浄水場、ゴミ焼却場、バス操車場など不要な資産を抱え込んでいる。施設の稼働率は軒並み低い。民間企業並みの合理化、統廃合をすれば余剰地がどんどん出てくる。売れば財政赤字は激減する。無償で貸与すれば民間企業が活性化する。

 いずれにしても市民の側が接収して有効活用すべきだ。どうみても25%というのは異常値だ。まるで社会主義国ではないか。大阪だけではない、他の大都市でも10%を超えるところが多々ある。今のままでは増税が必至だが、その前に都市部の自治体の資産を“がさ入れ”すべきだ。

平成の払い下げ

 ここで思い起こしたいのが、明治政府が行った官営工場の払い下げだ。政府が自らの身を削って技術と資本が足りない民間企業を支援した。昭和の国鉄改革でも操車場跡などの遊休地を売却し都市の再生に寄与した(品川駅、大阪駅など)。私は内需、特に医療・教育・福祉を産業として育てるために平成の世においても自治体の資産の払い下げ(無償開放)をするべきだと思う。

 政府といっても、今回の主役は国ではなく、自治体だ。具体的には、(1)託児所用地、(2)高齢者専用賃貸住宅向け用地、(3)職住近接型の住宅開発用地---を民間の事業者に無償で開放(売却、もしくは無償貸与)すべきだ。

(1)託児所用地の提供
 わが国の女性就業率は、地域差があるものの、およそ4割程度と低い。わが国の内需、特にサービス業の生産性と品質が上がらない原因のひとつにこの問題がある。良質かつ割安なミセスの労働力が活かせていない。

 この問題は託児所を増やせばかなり解決する。役所が直営でやるのは非効率だから、民間に任せる。その際には規制緩和や補助金がしばしば話題になる。だがそれだけでは参入促進の決め手にはならない。都市部では土地の取得コストが高すぎる。自治体が土地を提供すべきだ。財政支出はゼロかむしろプラスになる。

(2)高齢者専用賃貸住宅向けの用地提供
 内需が拡大しないもうひとつの原因は、富裕層がお金を使わない点にある。富裕層の大半は、都市部の中高年だ。わが国の個人金融資産の約8割は50歳以上が持っている。彼らは老後の不安からひたすら貯蓄する。なぜなら特別養護老人ホームの入居待ちが全国で42万人(2009年)も出ている。一方、民間のホームに入るには数千万から億を超える資金が必要になる。政府は内需拡大をしたければ老人介護政策を転換すべきだ。その予算はサービスコストととらえず、かつての公共事業と同様に景気拡大のための投資と考える。

 具体的には、ある程度のお金を出せば普通の人が自己資金で入れる高齢者向け専用住宅を、民間企業が大量に供給すべきだ。土地は余っている。自治体が膨大な公営住宅用地を塩漬けにして持っている。建て替え資金がないので老朽化したまま、入居率が下がっている。これも接収して民間事業者に無償開放する。

(3)職住近接型の業務用地の提供
 公営住宅だけではない。大都市部では、高度成長時代の施設が余剰化かつ老朽化しつつある。もはや更新すべきではない。ところが官僚組織に任せておくと、組織の存続のために無駄な更新投資を続ける。これを阻止して接収、設備廃棄してほかの用途に転用する。無駄な運営経費が消え、設備更新費用が浮き、おまけに遊休地が使える。余剰人員の存在も浮き彫りにされる。

 例えば多くの都市で、水道、ゴミ焼却場、バスの操車場は需要そのものが減っている。なのに昔からの設備がそのまま残っていて有効に使われていない。まとめて接収して職住近接型の業務用地にするべきだ。そして高スキルの研究者やプロフェッショナル人材を集める。21世紀の産業政策では、工場誘致よりも創造型人材を集める。すると先端企業が人を求めてやってくる。

分野と組織を超えた「ストックの組み替え」

 大阪府ではこうした施策を「ストックの組み替え」と呼んでいる。ストックの組み替えとして、橋下改革ではこれまでに、(1)大阪市が建てて経営破綻したWTCビルの府庁庁舎への転用、(2)伊丹空港の廃止と跡地の再開発(国有地だが政策転換を要請)を決めた。他にも不動産の転用をどんどん進めている。

 大阪市内全体を見渡すと、歴史的使命を終えた市役所所有の不動産がごろごろしている。

 例えば淀川べりの柴島(くにじま)浄水場の用地は格好の職住近接型業務用地となる。あるいは市民のリサイクル意識を他の都市並みに高めれば、大阪城近くの森之宮地区にあるゴミ焼却工場の建て替えは不要になる。大阪市役所の施設はほかにも不要なものが山ほどある。ところが各部局はこれを返還、あるいは処分しようとしない。結果的に余剰職員の隠れ家になっている。すべて市民の視点に立って接収し、民間に払い下げ、あるいは無償貸与すべきだ。

 大阪だけではない。全国どこの自治体でも歴史的使命を終えた施設や土地が遊んでいる。地域の内需と雇用拡大のために自治体が自らの身を切って民需のために提供すべきである。

※注 今回の話題をさらに詳しく解説した拙著『大阪維新---橋下改革が日本を変える』(角川SSC新書)が9月10日に発売されます。ぜひご参照ください。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山信一

慶應義塾大学総合政策学部教授。運輸省,マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。専門は行政経営。2009年2月に『自治体改革の突破口』を発刊。その他,『行政の経営分析―大阪市の挑戦』,『行政の解体と再生』など編著書多数。