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弁護士
大 毅

 この連載では、IFRS(国際会計基準)や内部統制報告制度にかかわる開示(ディスクロージャー)制度の基本を解説している。前回は、開示義務違反の民事上の責任と金融商品取引法上の開示規制が問題となった事例を取り上げた。

 今回と次回では、金融商品取引所による適時開示制度について解説する。今回は適時開示の概要と、法定開示との違いについて説明する。以下、国内最大の金融商品取引所である東京証券取引所を前提とする。

適時開示とは

 適時開示(タイムリーディスクロージャー)とは、金融商品取引所の定める適時開示規則に従い、有価証券の投資判断に重要な影響を与える会社の業務、運営または業績などに関する情報を公表することをいう。

 金融商品取引所は上場会社に対して、重要な会社情報が生じた場合、ただちに適時開示規則に従った適切な公表措置(東京証券取引所の場合にはTDnetへの登録)を行うことを義務付けている。ちなみにTDnetは、Timely Disclosure networkの略である。

 大まかに言って、証券市場に提供される投資判断情報ルートは以下の三つがある。、(1)法令に基づく開示(ディスクロージャー)、(2)金融商品取引所の求めに基づく開示(ディスクロージャー)、(3)インベスター・リレーションズ(IR)である。

 このうち(1)はこれまで説明したように、金融商品取引法を中心とする法定開示である。(3)は、各会社が自らの判断で投資家による各社の有価証券の投資判断に必要あるいは有用と解される情報につき、自発的に開示する。

 これに対し、適時開示(タイムリーディスクロージャー)は投資者保護および市場機能の確保の観点から、金融商品取引所が上場会社に要請したことに端を発する。1999年(平成11年)9月から規則により義務化された。

 適時開示制度を東京証券取引所において制度化した久保幸年氏によれば、そもそも開示(ディスクロージャー)に必要な投資者サイドからの要件には以下のようなものがある(久保幸年著「マーケットサイドディスクロージャー」、中央経済社)。

  1. 網羅性(投資判断に影響を及ぼすべき重要な会社情報を網羅していること)
  2. 適格性(投資判断を誤らせないように正しく、または的確に理解し得るものであること)
  3. 適時性(情報提供すなわち開示のタイミングは重要な企業情報の発生する都度遅滞なく行なわれること)
  4. 公平性の要件(不特定多数の投資者に対して公平に情報が提供される方法が採用されること)

 適時開示制度は三つ目の適時性、すなわち投資判断に有用な最新の企業情報を可能な限り早期に開示することが重要であるとの考え方に立つとされている。

 この適時開示制度の規範(ルール)としての性質に着目すると、金融商品取引法に基づき開設・運営される金融商品取引所という組織の規則(適時開示規則)により制定されるという特徴がある。法定開示のように法律による国家により制定されたものでも、IR情報のように会社が全くの自発的な意思により開示するものでもない。

 このように適時開示規則は法律のように強制的に定められるものではなく、柔軟性が確保されている。その一方で、上場会社のための規則(ルール)を定める金融商品取引所により制定されることから事実上、当該金融商品取引所に上場している会社には強制力を与える。

 このような規範(ルール)を法律用語ではソフトローと呼ぶ(その他に日本証券業協会の定める日本証券業協会規則などがある)。市場環境の変化が速い現代社会においては、証券取引市場のルールも迅速に対応する必要がある。法律に比べて弾力的・機動的な運用が可能なソフトローとしての適時開示制度の役割は増すばかりである。