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 この仕事をしていると「うつ病のようなメンタルヘルス不調を簡単にスクリーニングできないか」という相談を受けることがあります。確かに早めに不調が見つかれば経過はひどくならずに済みます。職場としても療養などせずに元気になってくれたほうが良いでしょう。

 しかし、うつ病等のスクリーニングには限界や注意点があるのです。今回はそれを説明しましょう。

 スクリーニングといっても、アンケート形式の質問に自分で答えてもらう形になります。そのために精度の限界があるのです。例えば、うつ状態の疑いがあるのに見逃したり、正常なのに疑いありと判定が出たりします。意図的にうその回答をされたら正しく判定できません。病状には多少の波があるので、タイミングによっては見逃してしまうケースもあります。

法定健康診断の項目外で、会社側は回答を強制できない

 法定の健康診断の項目ではないので、従業員に回答を強制することはできず、あくまでも同意の上で実施することになります。例えば衛生委員会のような場で、会社側は従業員の了解を得る必要があります。健康にかかわる情報を入手するのですから、結果をどのように保管するかも大切です。結果が悪く出たからといって、差別的な待遇をしないよう注意する必要もあります。

 スクリーニングには様々な対象があり、数多くの質問票が開発されています。メンタルヘルス不調全部を見つけられるものはなく、特定の病気や病状に狙いを定めることになります。例えば本格的なうつ病なのか、軽いが長期にわたるうつ状態なのか、自殺の危険性なのか、というようにターゲットを絞らなくてはなりません。どんな質問票を使うのかについては、産業医などの専門家の助言が必要になるでしょう。質問票の中には版権があって了解を取る必要のあるものや有料のものがありますから、無 断でコピーして配布しないよう注意してください。

 問題ありと判定結果が出た場合の、事後措置を検討しておくことも大事です。極端な例として「あなたは異常だから精神科医に相談するように」と結果を返してしまったらどうなるでしょうか。告知された従業員はスクリーニングを行った会社側の姿勢を疑い、せっかくの対策が無駄になってしまうでしょう。匿名で行う方法もありますが、判定が悪くても自ら進んで精神科を受診する人は少ないので、それでは効果が上がりません。

 大切なことは、判定が問題ありと出たときに、産業医などの専門家の面接を受けてもらい、精神科の受診の必要がないかを評価してもらう手順を決めておくことです。

 うつ病のスクリーニングを行うと、1割以上の人に問題ありと出る可能性があります。従って専門家側の対応枠も考えておかなくてはなりません。

 以上のようにいろいろな限界や注意点がありますが、スクリーニングには良い面もあります。精度の限界と表裏一体なのですが、アンケート形式なら実施が容易です。通常は費用は安くてすみます。健康診断のたびに行えば、個々の従業員の毎年の変化も把握することができます。また、広く従業員全体に実施することもできます。

 これさえ行えば完璧というメンタルヘルス対策はありません。メンタルヘルス不調者が増加する現在、できる限り手を尽くすならば、うつ病などのスクリーニングは検討に値する方法の1つではないでしょうか。

 なお、厚生労働省は現在(2010年12月時点)、一般健康診断の際にストレス症状を確認し、これを有する従業員への医師による面接指導制度を検討しています。今後の法改正や指針の公表に従って、各企業ではその仕組みを導入する必要があるでしょう。

亀田 高志(かめだ たかし)氏
産業医大ソリューションズ 代表取締役・医師
亀田高志氏写真 1991年産業医科大学卒業後、NKK(現JFEスチール)、日本アイ・ビー・エムの産業医、IBMアジア・パシフィックの産業保健プログラムマネージャー、産業医科大学産業医実務研修センター講師を経て、2006年10月、産業医科大学による産業医大ソリューションズ設立に伴い現職。職場の健康管理対策を専門とし、専属産業医、医科大学教員、ベンチャー企業経営の経験を生かし企業に対するコンサルティングサービスと研修講師を手がける。メンタルヘルス相談機関であるEAP(従業員支援プログラム)の活用にも詳しい。
産業医大ソリューションズのホームページ:
http://www.uoeh-s.com/