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*本記事は,日経エレクトロニクスが2010年6月に発行した別冊「電子書籍のすべて」に掲載した内容を一部抜粋したものです。記事は,執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります。

電子書籍の時代に,日本の文化の一角を担う書店はどうなっていくのか。通商産業省(現・経済産業省)出身で,企業再生のプロとしてカネボウ(現・クラシエ)社長などを経て大手書店・丸善の経営再建に携わる小城社長に聞いた。

(聞き手は内田 泰,小谷 卓也=日経エレクトロニクス



今回の電子書籍ブームは本物なのか。

丸善の小城氏(写真:中島正之)
丸善の小城氏(写真:中島正之)
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 業界全体がどう取り組むかにかかっている。電子書籍で成功を収めるには,受身体質ではいけない。「やんなきゃ,いけない」ではなくて,「チャンスとしてこの機会をどう利用するか」が一番大事だ。放っておくと,これはゼロサム・ゲームで終わってしまう。なぜなら,電子化すると,書籍の単価が下がる可能性があるからだ。市場が縮小してしまえば,元も子もない。

ただ,国内出版社などの受身体質はまだ抜けていないようにも見える。

 国内の書店業界は1996年から市場が縮小している。東京都でも2009年の1年だけで50店が閉鎖された。この理由として「活字離れ」が喧伝されているが,それは事実ではない。「本離れ」が起きているのだ。それは,ブログやTwitterなどのソーシャル・ツールをみんな使っているのを見れば分かる。

 電子書籍の時代に,書店は放っておけば中抜きされてしまうだろう。だから,どうやってこれを機に市場を広げるのか,真剣に考える必要がある。幸い,書店は商品を売る最前線にいる。紙とリンクしてどうやって商品を提供できるのか,どれだけ知恵を出せるかが勝負になる。

 米国の国土は日本の約25倍もあるが,書店の数は日本の7割しかない。徒歩圏内にこれだけの数の書店があるのは,日本の重要な文化。それを守らなければならない。

米国では書店最大手のBarnes&Noble社が電子書籍事業に参入している。

 同社の動向は見ているし,販売する電子書籍端末「nook」も使っている。2010年の初めから3月までは,紙の本は一切読まず,電子化生活を送った。これによって分かったのは,米国の端末は通勤電車などで読むことを想定していないことだ。あの端末はプールサイドやバカンスで読むためのもの。そ
ういう用途にはかなりいい。

 つまり,コンテンツの種類とライフスタイル別に,それに合った端末やサービス形態があるということだ。紙の本とのうまいシナジーも重要になる。我々にすごいチャンスが来ている。

今後,電子書籍の時代に書店はどうなっていくのか。

 書店が介在してエコシステムを作るケースと介在しないケースが出てくるだろう。例えば,現在でも本を買う場合,あらかじめ買うものが決まっているときはオンライン書店が圧倒的に便利だ。ただ,本との驚きを持った出会いができるのはリアルな書店。オンライン書店には推薦機能があるが,統計処理をベースにしているので推薦される本は想定の範囲内のものだ。僕自身はそれを気に入っていない。

 実際には,不連続だけど実は関係しているものがある。それを実現するには人の介在が必要だ。丸善は丸の内本店内に,従来の書店の分類とはまったく異なる「松丸本舗」を開設している。(書評サイト「千夜千冊」を運営する著名編集者の)松岡正剛さんに編集をお願いしている。本好きなら2 ~3時間はここに居ても飽きない。つまり,松丸本舗のようなものをデジタルの世界で作る手はあると思っている。

 今,書店では自動配本というシステムが出来上がっているので,努力しないと金太郎飴的になる。書店はデジタル化が進むほど差が出てくる,と思っている。